magic lantern

愛してるって言ってやる

久慈川りせが狙われる、とおれたちが踏んだ通りに狙われたのはりせだった。すれ違いのタイミングでりせはいなくなってしまい、マヨナカテレビに彼女が映った。おそらくは彼女の影、が。
空梅雨らしく雨は続かないが、油断は出来ない。それにマヨナカテレビの内容が内容だから、早く助けなくてはと千枝も雪子も急いでいる。気持ちは分からなくもないし、おれは忙しくしていたかったから喜んで彼女たちの言うままにテレビに入り、探索を続けた。
「あのさ、月森くん」
「ん?どこかケガでもした?」
戦闘がひと段落して、とりあえず辺りにシャドウの気配が無いことを確認して休憩をしていた時だった。遠慮がちに千枝が声をかけてくる。
「その、さ……言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ」
「うん」
千枝の側にいる雪子がそわそわしているのが分かった。二人は何か知っているらしいが完二は首をかしげている。
「花村と…ケンカとかしたの?いや、詮索とかそゆんじゃなくてちょっと気になったっていうか気にして…じゃない、えーっと」
「いつも通りじゃないすか?今日だって一緒に飯食ってたじゃないすか、先輩たち」
「ケンカなんてしてないよ、完二の言う通り、今日の昼休みだって普通だったろ」
時々、仲間みんなで昼飯を食べることがあって、今日はたまたま都合がついたので五人で屋上で食べた。あれから、陽介と二人きりになることは避けたし好意を示すようなことを言うのは止めたが、なにがあっても親友で相棒だとおれが陽介に言ったのだから、そういう付き合いとしては今まで通りにやっていた。
「うーん、いや、そーなんだけどね。あー、もう、よく分かんない!」
「?」
「なんか最近あのバカ元気無いなーって思って。でも別にキミら今まで通りだし、花村だっていろいろあるだろうから元気無いときぐらいあるだろうけど、なんか、こう…」
「月森くん絡みじゃないかな、って二人で思ったんだけど。勘違いだったのかな」
女性の勘、恐るべし。いや感心してる場合じゃないよな。まあ正確に言うと陽介はおれのせいで悩んじゃってるだけで、ケンカしてるわけでも不仲になったわけでもないけど。おれはことさら朗らかに笑ってみせた。
「バイトも頑張ってるしさ、バイト先でもほら…いろいろあるみたいだから、疲れてるんじゃないのか。断れないタイプっぽいし、あいつ」
「それは確かにそうかも、まあ疲れて当然だよねー」
「そうそう、みんなも気をつけてくれよ、おれも気をつけるし」
「うん」
その話はそれで終わりの、はずだった。



タイムリミットが近づいて、気持ちばかりが焦っている。曇りの日が続き、雨は降らないが曇っている空を見るだけで気が滅入った。授業を大人しく受ける気になれなくて、屋上のどこかで寝ようと階段を上っていた時。
「花村先輩」
聞いたことのない、女子の声が陽介を呼んだ。
「えーっと、話って?もうすぐ授業始まっちゃうよ」
「その…好きなんです、付き合ってもらえませんか?」
「え……」
息を殺して、様子を伺う。屋上へと繋がる扉の手前で、どうやら告白されているらしい。
「一応とか、ふりとか、そういうんでもいいんです」
「……ふり、って」
「先輩が、三年の小西先輩のこと好きだったの、聞きました。だからその…恋愛とか要らないって思ってるんだとしても、一度でいいから、デートしてもらえませんか?」
女子の声は必死で、どう考えても罰ゲームだとか冗談だとか、そういう風には思えない。
本当に、陽介のことが好きで陽介を必要としてる、女の子。
「……確かに俺は小西先輩のこと好きだったし、今はそういうの要らないって思ってる。でも、そういう事情とは関係無しに君とは付き合えない、ごめんな」
「一度だけで、いいんです、デートだけでもだめですか?」
断るにしても事件のこととか小西先輩のことを前提にして断ると思っていたのに、陽介の言葉が意外で知らず手のひらを握り締めていた。
「俺、今、その…やらなきゃいけねーことがあって。それに時間とか頭とか全部使いたいってのもあるし、こういうの君に言うのはどうかと思うけど、言うな?」
「え?」
「すげえ仲良いヤツにさ、好きだって言われた。先約どうこうじゃなくて、恋愛なんていらねーって思ってるのに、ソイツに好きだって言われたの、嬉しかったんだ。嬉しかったけど、小西先輩のこともあるし、やんなきゃいけねーこともあるしで、どうしたらいいか分からないって言っちまった。嫌われたくないけど、好きとは答えてやれないなんて…最低だよな。ソイツは君みたいにいっぱい勇気出して好きだって言ってくれたのに」
「……先輩は、その人のことが好きなんですね」
「分かんねえ。そいつに嫌われたくなくて好きだって勘違いしてんのか、ほんとに好きなのか、もう全然わかんねえ。おまけに…って俺が君に愚痴ってる場合じゃねえな、ごめん」
「いいですよ、私に話して楽になれるんだったら。それに…花村先輩がどういう人が好きなのか、興味あります」
「ありがと、優しいな。……最近、そいつ、何も言ってくれなくなって。前は止めろって言っても好きだって言ってきたし、よく一緒にいたのに、最近、全然でさ。俺が曖昧な態度取ってるから、呆れられたかなって。勝手だよな、前までは止めろとかそういうの要らないとか思ってたくせにさ、いざ何も無かったらすげえ不安で。ソイツは俺がノーって言っても嫌いになんてなれない、なんて言ってくれたけど、さすがに…呆れられたかな。ウザいもんな、そういうの」
手のひらに、汗ばかりかいている。陽介を傷つけているとは、思ってなかった。どうしよう、でもアレ以上近づけないし。近づいちゃ、いけないし。
「やっぱり、その人が好きなんじゃないですか。なんだ、好きな人がいるならフラれて当然ですよね。花村先輩」
「ん?」
「多分…その人は、花村先輩が困るだろうからって言うの止めたんだと思いますよ。好きな人のこと、困らせたくないじゃないですか。出来たら…笑ってほしい、とか、思っちゃうし。自分のことで笑顔になってくれたら一番だけど、でもそうじゃなくても笑ってて欲しいって思います。だから、先輩」
おれなんかよりよっぽど勇気があって強い女子の声に淀みは無い。フラれたと言いながら、どこまでも明るくて優しい。似合いだと、思うのに。
「その人と仲良くして下さいね、きっとその人、すごく先輩のことが好きな人だろうから。今はその、困らせたくないとか嫌われたくないとか思って先輩を避けてるのかも知れませんけど、もし先輩がそういうの嫌なら、先輩から近づいてあげたらいいと思いますよ」
「俺から近づいて……こんな曖昧なまんまで、いいのかな。あいつが言うみたいな好きじゃないかもしれないし、いざ答えを迫られたら嫌だとか言っちまうかもしれないし」
「それならそれでいいんじゃないですか、だって気持ちってそういうもんでしょ。それに…お互いが100%好き同士で始まるとか、無いじゃないですか。私だって、私が100で先輩が0からスタートでもいいって思ってたし」
「……そういうもん、かもね。ありがとな、ほんと」
「いいえ。言ったでしょ、好きな人には笑っててほしいって。だから幸せになって下さいね!」
女子の靴音だろう、軽い足音が近づいてきて咄嗟に男子トイレに身を隠した。ばくばく言い続けている心臓を押さえつけるように、胸に手を置く。
さっきまでの二人の会話がぐるぐると頭の中で回る。陽介が言っているあいつってのはおれのことだけど、やっぱり陽介は悩んだままだからおれから下手に近づくわけにはいかない気がした。おれがそうやって避けていることで陽介は傷ついているらしかったけど、でもそれでも。
「…実習棟行くかな」
屋上には、多分陽介がいるだろう。今、会える気がしない。会って、平然と仲間面してられる自信が無い。実習棟のどこか空き教室ででも寝ていればバレないだろうとトイレから出ようとした。
「…メール?」
学内の人間が授業中にメールを送ってくるのは珍しい。携帯を開いて新着メールを確認する。差出人は、花村陽介。
「……なんで」
メールは簡潔だった。話がある、抜け出せて来られないか。無理だったらこの授業が終わった休み時間でいいから屋上で。と簡潔だが有無を言わせない迫力が何となくある。
「なんで、お前は」
さっきの女子が言っていたことは当たっているし、なかなかいいこと言うなと思ったけど、でも。行けない、と一度文を打って全部消した。分かった、とだけ打って送信する。
嫌だと言わせてしまえば、それで終わりに出来る。何故か、そればかり思った。




「…悪かったな、フケさせちまって」
「別にいいよ、どうしたの」
いつも通りを装って軽い口調で返すと、陽介は押し黙った。屋上、給水塔の影になるコンクリートの上でじっとおれを見ている。
「お前、最近、俺避けてねえか」
「何で?だって今、ここにいるだろ。飯だって一緒に食ってるし探索だって行ってるし」
「ふざけんなよ」
低い声が、言葉を遮った。
「ふざけんな、見くびってんじゃねえ。お前があの日から何を避けてるかぐらい、分かるってんだ。甘くみんな」
「……じゃあどうして避けてるかも分かってるはずだよな。ならそれでいいだろ」
ここで引くわけにはいかない、とこちらも力を込めて睨み返す。久しぶりにまともに陽介の顔を見た気がした。どことなく疲れて見えて、確かに千枝たちが心配するのも無理はないと思う。
「良くない。お前はもう、俺のこととか好きじゃ、ねんだろ」
声が震えていて、抱きしめたいと思ったけどそれは叶わないことだから拳を握り締めるにとどめた。
「言っただろ、お前がおれを嫌ってもおれはお前がずっと好きだって。今でも好きだよ。でも、もうあんなことはしないし、言わない」
「……ッ」
息を詰めた陽介は、それこそ打ち捨てられたみたいな顔でおれを見ている。ダメだ、勘違いしちゃダメだよ、陽介。
「お前は今ちょっと混乱してるし、疲れてるし。優しいからさ、お前。おれが言えば言うだけ、困るだろうし悩んじゃうだろうから。まあ忘れろとか言っても忘れにくい事柄だからあれだけど、出来れば忘れ…陽介?」
忘れろ、と言おうとしたのに陽介に胸倉を捕まれて最後まで言えなかった。胸倉を掴み上げて、陽介は涙目でおれを睨んでいる。
「勝手なこと、言ってんじゃねえ。ナンだよ忘れろって、忘れられるわけねーだろ、もう戻れねーよ!!」
勢いのまま、陽介にどんと胸を押されて押し倒された。腹に乗っかった陽介はまだ胸倉を掴んだままだ。
「お前のこと、なんか好きかもって、思って。そしたら何か知らねえけどお前避けてくるし、好きだとか言わなくなったし、嫌われたのかと思うけどお前いつも通りに見えるって里中たちは言うし、へんな夢見るし、……もうよくわかんねえ、わかんねえよ」
「あのさ、陽介はその…小西先輩のこととか今までのこととかあって、ちょっと不安定なんじゃないのか。そこにおれが好きだのナンだのって言っちまったから、混乱したっていうか勘違いでそういう風に思っちゃっただけでさ、お前は……よう、」
ぼたぼた、と大粒の涙が上から落ちてくる。陽介は涙を拭おうともせずにおれの胸倉を掴んだまま、ぼろぼろと涙を零した。
「ん、で……なんで、お前、俺の言うこと信じてくんねーの?」
「落ち着けよ、信じてないんじゃなくて、お前がちょっと混乱してるから」
「落ち着いてられるかよ!!何でお前はそうなんだよ!!」
涙を流しながら、陽介はありったけの大声をおれに叩きつける。
「何で…いっつも、いっつも……俺のこと好きとか言うくせに、なんで…俺のこと…ッ……」
泣き顔に手を伸ばして、涙を拭って前みたいに抱きしめたかった。でも、腕が伸ばせない。
「ごめんな。陽介を傷つけたくなかったけど…おれも、怖いんだよ。錯覚してるお前を絡め取っておれのものにしても、お前の目が覚めればそこでおしまいだ。そこで、もうおれは永久にお前を失う。そんなの…耐えられないんだ、無理なんだよ。いつかお前を失うぐらいなら、おれは一生片思いでいい」
「…や、だ…っ……そんなの、俺がやだ…!」
また大粒の涙を零し始めた陽介の顔に手を伸ばして、触れきれずに手を止めた。触れたら。触れてしまったら。
「なあ、俺、どうしたらいいんだよ、教えてくれよ、今みたいなの、もうやだ……」
「、陽介、止せ」
陽介が空中で止まっているおれの手を取って、ぎゅっと握り締める。顔を摺り寄せるような仕草に、目眩がした。
「やだ、離れたく、ねえよ」
「止せ、もうこれ以上泣かせたくないから、離れろ」
「嫌だ!」
離れろ、と言ったのがまずかったのか陽介は手どころか身体全部で抱きついてくる。久しぶりに、陽介の使っているシャンプーの匂いがして腰が熱くなった。
「止めろ、なにやってんのか分かってるのか」
「好きだよ」
「……ッ、止せ、止めろ」
「好きだって、なあ月森、好きだ」
待ち望んでいたはずの台詞だったのに、本心ではないとどうしても思えてしまって、痛みしか呼ばない。身体を反転させて組み敷いてめちゃくちゃにしてやりたいと思いながら、そうしないように唇をかみ締めて手を握る。
「俺はお前と離れたくない、避けられんのやだ、お前のことばっか考えてて、お前とやっちまった夢まで見てさ」
「!?」
「もう戻れねえよ、お前とやっちまってる夢見て出してるとか、俺、ほんと…」
がつんと鈍器で殴られた以上の衝撃がある言葉だったが、とりあえず首を振って冷静になろうとした。
「お前は、おれに引きずられちまっただけで、そういうのは反射だから…ッ、ん、」
噛み締めていたはずの唇に噛みつかれて思わず喉が鳴る。陽介は何度もおれの唇を噛んで、キスを続ける。
「…っう、…ふ…ぁ……」
ジュネスのフードコートでした以来、で、さっきの台詞と相まってあまりにも刺激が強すぎた。
「ん、んんー!…ッ、んむ……ん、ぅ、…ぁ……」
気付けば、握り締めていたはずの手を陽介に伸ばして身体を抱きしめ、夢中になってキスをしていた。欲しくて、欲しくて、どうしようもなかった。
「…は、ん…ぁ……、ん、ぅ…」
離れたくない、そう陽介が言ったようにおれだって離れたくない。この唇ですら、離したくない。
「……っは、…はぁ…言っとく、けどな」
どうにも息苦しくなって唇を離すと、陽介は唾液で濡れた唇を拭おうともせずにおれを真正面から見つめる。
「俺は反射とか気の迷いとか、そーゆーんで相棒とキスする、趣味はねーぞ」
「……」
「お前はさ、どうやったら俺のこと信じてくれんの?これでもまだ気の迷いだとか混乱してるせいだとか、言うつもりか?」
真っ直ぐに向けられる、陽介の視線から逃げるように目を閉じた。
「月森」
「……」
咎めるような声に促されて、ようやく声が出る。
「いつかお前が勘違いだった、とかやめてくれ、とか言い出しても、別れてやらない。絶対に。それでもいいのかよ」
「……他には?」
「好きな人が出来たとか言われても、離してやれない。泣かれてもわめかれても」
「それで?」
陽介の声がひどく優しい。それが、何故か泣けた。
「執着が並じゃないのぐらい自分で分かってるし、でも抑えられそうにないし、来年になっておれがここ出ても」
「……うん」
「別れてなんてやらないし、浮気なんて許さないし、何度だってここに来る」
「そうしてくれ」
「なあ、本当にいいのかよ?自分で言うのも変だけど、おれ、お前みたいに優しくないし」
「はは…それはそうかもな。お前たまにSっぽいもんな。…で、前置きはそれで終了か?」
何故、目の前の陽介が笑っておれの頭を撫でているのかが分からない。どことなく、嬉しそうなのかも。
「じゃあ今度は俺の番な。言っとくけど俺も大概だからさ、浮気も許せないしお前が都会に戻るときに別れてもやらない。いい思い出なんかにしてやんないよ、一年なんてすぐだろ、同じ大学に行くとかだって出来るし…同じ街に住むとか。そうしてくんなきゃやだ。お前は料理上手いし器用だから、楽しそうだな」
「陽介、本当に、いいの?おれさ、お前に触っても平気?」
触って、そのままおれのものにしてしまっても。おれがそういうと、陽介はいまさら、って笑った。
「うん。陽介、好きだ。おれと付き合って、ずっと」
「ああ。…な、月森」
少しだけ身体を寄せてきた陽介を抱きしめて何、と返すと陽介は小さく笑う。
「なんかやっと眠れそうな気がする、寝てもいいか?」
「……膝枕してやろうか。それとも、こないだみたいに抱き枕がいい?」
くすくすと笑った陽介はどっちでもいいや、と言ってなおのこと身体を摺り寄せた。
「俺さ、林間学校のテントの中のこと、全部覚えてるよ。お前のこと好きかも、って言っちまったのも。お前とやっちまった夢見たのは、その後。相当焦ったけど…しょうがねえよな、だって、嫌じゃなかったし。夢の中のお前優しかったしさ」
「おれより?焼けるなー」
「はは、ばーか。ほんと、ねむい……」
すう、っと陽介は眠りについた。無理をしていたのだろうか。無理をさせて、いたのだろう。おれが。
夢の中のお前は優しかった→現実はそうでもない、と比較されて凹む気持ちも若干あったが、それよりも何よりも喜びや幸福感が身体を満たしていて、思わず笑みがもれた。
卑怯で、ずるくて、傷つけたりもしたおれのことを陽介はちゃんと好きだ、と言った。いい思い出になんかさせない、と先を誓うようなことまで言ってくれた。自分には過ぎる幸せだなと思う。
永遠なんてものはないし、変わらないものだってないはずで、でも、この気持ちだけは色褪せないと信じたい。何度も更新して、上書き保存で塗り替えて、その度にもっと好きになるような、そんな気さえする。陽介にそう言ったら、愛情はデータじゃねえぞ、って笑うだろうけど。
「ごめんな」
おれにもたれかかったまま、小さな寝息を立てる陽介の髪ごと頭を撫でる。色素の抜けた髪を風が揺らした。
「お前はとっくに分かってるだろうけど、おれ、けっこうダメなやつだからさ」
陽介を傷つけるような真似をしたのは、おれが臆病だからだ。失いたくないと思って、自分が傷つくのが嫌だったから。傷ついても何度だって手を伸ばせばいいのに。おれと付き合ったことを後悔させないように、覚悟を決めてしまえばいいのに。お互いのために近づかないことが一番いいのだと言いながら、その実、自分が傷つきたくなくて覚悟を決められなくて単なる弱虫なだけだった。
シャドウを自己で律することによって、ペルソナを得る。あの世界のルール。おれはおれのシャドウに会わなかったが、さぞかし自分勝手で情けないことを言うやつが出てくるのだろうなと思う。現実世界だって、何かを欲しいと思うのならそれに見合う行動を取らなければならない。信用が欲しいのならそれに値する言動を、お金が欲しいならば労働を。
「だから、頑張るよ」
お前が、いつか後悔したりしないように。お前とちゃんと向き合って、全てをぶつけて、互いに傷ついてもそれを癒して。そうやって、一緒にいよう。お前はきっとおれがどれだけ情けないことを言っても、そこで簡単に失望せずに受け止めてくれるから。
おれの卑怯な言動を真っ正直に受け止めて、あまり眠れないほど悩んでしまった陽介。そこに包まれたものが、単なる同情や憐憫や友情だけのものではないから、それが嬉しい。卑怯だとおれを詰りながら、それでもおれに背を向けたりせずに受け止めてくれた。
「ありがとう」
おれを受け止めてくれて、受け入れてくれて。腕の中の陽介が、少し笑った気がした。


番長、実はチキンでした編。まあ完璧超人ドSの番長でも恋には臆病になったりするといいよ的な。