ブリギットの掌
「よう、お前、来ちまったのか」
なぜ、ここで彼の声が聞こえるのか。彼は別の戦場にいるのではなかったのか。
「…なんで……え?」
横たわっていた身体を起こそうと手をつけば、そこは砂浜だった。太陽に熱された砂浜だと気づいた途端、自分も日の光に焼かれていることに気づく。ニールは思わず目を細めた。
「来ちまったんなら…しょうがねえか」
逆光で良く分からない視界の中、ハレルヤが笑ったようでニールは眉間に皺を寄せる。
「ナンだよ、っていうかどこだよ、ここ、俺たちは」
「どこだろうな、おれも気づいたらこっちさ。けど、一つ分かってるのは」
ハレルヤはニールの傍に腰を下ろし、ふっと薄い笑みを浮かべた。
「おれたちは死んじまった、ってことだ」
「……」
その言葉はすとん、とニールの胸に落ちた。
ああそうか、やはり死んでしまったのかと自分でも笑えるほどすぐに理解が出来た。
自らの命を賭けても、あの男を殺せるのならそれでいいと願ってしまったから。
戦闘において生死を分けるものがあるとすれば、それは正義のありかなどではなくて生への執着に他ならない。
「おい」
「へ?」
手首を掴まれていることにニールが気づいた時、ハレルヤとの距離があまりに近いことにも気づいたが腰を引こうとしても出来なかった。目の前の光景に釘付けになったせいだ。
「もう、こんなモンいらねーだろ」
ハレルヤが手首を掴み、黒い皮手袋の先を眼前で咥える。指の先、手袋の先端を噛まれたのが分かった。
「ちょ、ハレルヤ」
制止しようとした声をハレルヤは目だけで笑って、すっと手袋を噛んだまま脱がせてしまう。誰にも曝したことの無かった、素手。
「あ……」
微かな声を上げることしか出来ないニールに見せ付けるようにして、ハレルヤはもう片方の手袋も脱がせてしまった。
「へぇ、やっぱ白いな」
手を離そうとしないハレルヤは、ためつすがめつするようにニールの素手を眺めていたが、もう一度手に唇を寄せる。
「ハレ、ルヤ…ッ……止せ!」
ニールは今まで、素手を曝したことはなかった。狙撃手である以上、商売道具の手を保護する意味でもあったがそれ以上に、自分で直視したくなかったのだ。CBに来る前からあまたの人々の命を奪った、手。トリガーを引いた指。
白いと言われても、肌の色は白く見えても、ニールには血に染まったようにしか見えない。
「ニール」
慌てて自分の手を取り戻そうとしたニールは、教えていないはずの名前で呼ばれた途端、驚きでぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
「ニール」
いつ名前を知られたのだろう、アレルヤに聞かれたときだろうかとニールが考えている内にハレルヤはニールの手を取って、指を絡めるようにして身体を引き寄せる。
「やっと、触れた」
キスもセックスも、あんだけしたのにな。
ハレルヤの声に、ニールはゆっくり目を閉じた。こぼれるはずのないものが、流れ落ちた気がした。
あれ…ライル見てわいわい…?これからハレニルは南の島で新婚生活です(断言)
