magic lantern

A stór !

ニールは海の向こう、茫洋とした海と空との境目からずっと目線を外さない。視線の先には、ニールと瓜二つの姿をした男が酷薄な笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん」
「……お前ね」
我ながら悪趣味かとは思ったが面白そうだったのでハレルヤはそうニールに呼びかける。二ールは苦笑いを浮かべただけで咎めたりせず、おいで、と自分の隣を手で示した。
「あれがお前の弟か」
ハレルヤの問いかけに二ールは頷いて、目の前に映っている男の言動を逃すまいと食い入るように見つめている。ハレルヤは二ールの横顔を見て、それから海の上空、まるでスクリーンのように浮かぶ男の顔に目をやった。確かに似ている。黙って、何の表情も感情も見せなければさぞかしそっくりだろう。
「ライル……」
ぽつりと落ちた声が微かに震えていることに気づき、ハレルヤは姿勢を変えずに目線だけでそっとニールの様子を窺った。泣いているのかと思ったが、今にも泣き出しそうな顔をしているだけで涙の欠片も見えない。
「ライル、お前の」
お前の未来を俺は守りたかったのに。お前の生きる明日に戦争なんていらないのに。だから。だから……
「……」
わななくようなか細い声を聞きながら、ハレルヤは片手を伸ばした。わずかにあった距離を詰め、細い肩を掴む。
目の前の男は、反政府組織に身を投じようとしていた。反体制の武力活動をテロと一括りにしてしまうなら、テロリストに自らすすんで志願したのだ。
「ライ、ル……っ…」
あの日から手袋をつけていない、二ールの白い手がぎゅっと握りしめられて思わずハレルヤは二ールの身体を抱き寄せた。身体を浚い、海からニールの視線を奪うように、自分と向き合う体勢にする。
「いつまでも他のオトコ見てんじゃねーよ」
「ハレルヤ……」
ニールはちらりと背後を覗おうとしたが、ハレルヤが首と腰に腕を回して身体を引き寄せたので、諦めるように小さくため息をついてハレルヤと額を合わせた。
「お前ね、俺の弟に焼いてどうすんの」
「バッ……ンなこと一言も言ってねえ!!」
先ほどと態度を一変させたニールが楽しそうに笑って焼きもちかーカワイイなー、などと言うので、ハレルヤはどうしていいか分からず赤くなってしまった顔を隠すように反らす。が、今度は二ールが両手でハレルヤの顔を掴んで引き戻した。
「隠すなよ、お前ってホントこーゆーとこ可愛いよな」
「てめェな……」
可愛い、という単語はたとえばマルチーズだとか目の前で楽しそうに笑うこの男の起き抜けだとか、そういうものに相応しいはずで自分に相応しいはずなどない、むしろ嫌がらせだと判断したハレルヤはむっと唇を尖らせる。
「可愛い可愛い」
ペットか何かを愛玩するような口調で二ールはそう言って、ハレルヤの髪を少しだけ手で払いながら額にキスを落とした。リップ音を立てて唇が離れる。
「ンなっ……ニールてめェ…今晩覚えてろ!!」
キスされた額に手を当ててハレルヤがそう叫ぶと、二ールはけらけらと尚も笑って楽しみにしてるよ、とうそぶいた。
いつの間にかこの島に来ていた二人だったが、生活する上でルールをいくつか決めている。もちろんほとんどは二ールが決めてハレルヤが譲歩する形だったが、そのうちの一つとしてセックスをするなら夜に自分たちの家で、というルールがあった。昼夜問わずがっつかれてはたまらない、と早々に二ールが決めたこのルールをハレルヤは今のところ守っている。夜になれば拒む理由が二ールに無くなるし、突然の任務で中断されることもないし、下手に機嫌を損ねてお預けを食らわせられるよりはずっといいからだ。
「なーハレルヤぁ」
「……ンだよ」
「ありがとな」
ぴたりと笑みを止めた二ールがこぼした真摯な感謝がくすぐったくて、ハレルヤはそのまま眼前の身体を抱きしめて視線を互いにそらした。
「別に感謝される覚えとか、ねーけど」
「んー?でも、ありがと。お前がいてくれて良かった」
落ち着いた声に、何故かぐっと胸が詰まってしまう。何か、と声を出そうとしたが喘ぐような息しか出なかった。
「ほんと、お前がいてくれて良かった、一人じゃなくて良かった」
あちらにいた頃、仲間の調和だの何だのと気を使うくせに一人でいたがることの多い男だったのに。ハレルヤは少し前の記憶を手繰ってニールの言葉を鼻で笑った。
「なら今晩サービスしろよ」
お前ねぇ、と咎め立てた二ールの声は笑みを含んでいて、ハレルヤは心の内で首をすくめる。
一人じゃなくて良かった、この男がそう口に出せたのが嬉しくて哀しい。あちらにいる間、そんなことを決して言ってはくれなかったから。



二期前、一期後しばらく。泣かせられなかった…今度こそは!!