龍鷁
「……そうだね」
並び立つことを許された、互いに許しあった存在であるが故に彼らは互いに全てを傾ける。自らを省みることすらせずに。互いに与えあう情はいかなる情をも含んでいて、外部にいるしかない如月たちには恋愛だの友情だの名前をつけることが出来ない。どう周りが言い表しても龍麻は一切気にしないだろうし、京一は何やかやと文句を言いそうではあるが周りに左右されてしまうことなどあり得ない。
「ん…んあ!?ひーちゃん!」
つい十数分前にも全く同じ光景を見たな…と呆れ返りながら如月は上半身を起こした京一の傍に歩み寄り、思わず笑いかけた。笑うしかなかった。
「あれ、何で俺寝てんだ?村雨も如月もどーしたんだよ?ひーちゃんは?」
重傷で昏睡状態にあった龍麻と違って、氣を使い果たして疲労で寝ていた京一はいくらかまともな反応を見せる。どちらにしても相棒のことばかり口にするのは同じで、似た者同士というより他無い。
「お前さんは今朝倒れたんだよ、蓬莱寺。先生に氣を与えすぎたから、とか看護婦のお姉ちゃんは言ってたな」
「あー……そっか。やっぱ俺とひーちゃんじゃ、元々のキャパが違ぇからなァ。如月、ひーちゃんはまだ眠ったまんまかよ?」
「さっき一度目を覚ましたよ。すぐにまた眠ってしまったけど、具合はだいぶ良さそうだった」
「そりゃ良かった。多少は俺のでも足しになったみてェだな」
うん、と伸びをして京一はすぐさまベッドから降りようとしたが村雨に阻まれた。
「夜中だ、まだ寝てろ。先生もそうすぐには起きねェだろうしよ」
「ンなこと言っても、もう平気だっつの」
ごそごそと動こうとする京一の身体を村雨と2人がかりでベッドに押し戻す。展開が全く同じだ。
「駄目だよ。今、龍麻のところに君をやったら君はまた龍麻に氣を全部与えて倒れてしまうだろうからね。龍麻が目を覚ました時、君が倒れていたんじゃあ大変だ」
「なんだよ、大変って。大体倒れてたんじゃなくて寝てただけだ、だから」
ある程度意識がはっきりしている分、京一のほうが往生際悪くじたばたと暴れてベッドから抜け出そうとする。龍麻が一度目覚めたと聞いたから顔を見たかったのかもしれないし、あんな状態の龍麻と離れていることが耐えられないのかもしれない。如月には分からなかった。
「京一くん、君が龍麻に氣を与えすぎたせいで倒れたのを高見沢さんが見つけて院長が君を治療したんだ。院長が状態を僕たちに説明してくれたから、隠し立ては無意味だよ。大変だ、というのは君がいなかったら龍麻は君を探して無茶をするから大変だ、という意味だ」
「ンなの大袈裟だってぇの。にしても院長センセに治療されてンのかよ俺……」
ううう、と身体を震わせて心底嫌そうに唸る京一の身体を何とかベッドに押し戻して、如月は薄い布団と毛布を重ねてやる。京一が尚も抜け出そうとしたとき、部屋のドアが開いた。
「大袈裟ではないよ、蓬莱寺」
「壬生?」
大丈夫か、と尋ねながら壬生は静かに如月と村雨の傍で京一と顔を合わせる。
「さっき一度龍麻が目を覚ましたとき、僕も如月さんも劉くんも龍麻の傍にいた。けれど龍麻は君を呼んでばかりいたよ。君がいないと分かるや否や探しに行こうとしてベッドから出ようとするんだ、押さえつけるのが大変だった。君も僕たちもみんな無事で、次はちゃんと君を連れてくると如月さんが約束した途端に安心して眠ってしまったけどね」
「……えーっと…その…悪かった、な」
壬生と如月に真正面から見つめられ、京一は顔を背けて拗ねたように唇を尖らせた。龍麻の行動の全てが自分に起因しているなどありえないけれど、壬生と如月が説明する限りでは龍麻が2人の手を煩わせた理由はあの場に自分がいなかったことらしいので、どうにも罰が悪い。
「全くだよ。君が龍麻に氣を与えたと知って、何人かが同じことをしようとしたけれど院長に無理だと止められて見ているこっちが気の毒になるぐらい落ち込んでしまったし。そこにいる壬生くんも含めて」
「無理ってどういうことだよ?俺は気功が上手いってわけじゃねえのに」
京一は発勁を行うことが出来るが、龍麻や壬生・劉のように発勁を攻撃の手段とする武術を学んだことは無い。剣の修練によって外に氣を放つ外気功を会得はしても、自らの氣を丹田に留めて回復に役立てる内気功は全く出来ないのだ。だから、自分の氣を与え切ってしまって倒れてしまった。
「院長が言っていたんだ、無理だから止めておけとね。君の氣を龍麻が受け入れたことも、龍麻に外から君が氣を与えられたこともとても稀なケースだと彼女は言っていたな。劉くんは納得いかなかったみたいで何度かチャレンジしていたけれど、無理だった」
如月が落ち込んだと評した壬生はそう淡々と説明して、やはり気落ちしているのかため息をついて目を伏せる。顔を合わせづらくなった京一は俯いて毛布を握り締めた。
あの時は、誰かに悪いだとかこれが本当に龍麻の役に立っているのかだとか、そんなことを考える余裕さえ無かった。
柳生が攻撃しようとした、その機先を読めたのは京一と当の龍麻だけで京一が声を荒げた直後に美里の悲鳴と何かが切り裂かれる音が続いた。
声を出す暇があったのなら、何故あの場にいてやれなかったのだろうか。まるで貼り付けられたように足が動かず、柳生が龍麻に向けた刃の切っ先さえ京一は受け止めることが出来なかった。受け止めることが叶ったのなら、その刃が自らを深く切り裂いたとしても京一は微塵も後悔などしなかったのに。
公園から桜ヶ丘まで、治療室から個室までの間、自分が誰に何を言い何をしていたのか京一には記憶がほとんど無い。柳生の刃を受けて倒れていく龍麻の姿の次は、青ざめた顔で眠っている姿に繋がっていて冷たい手を握り締めていた記憶だけだ。
反対側に誰がいたのか、自分の横に誰がいたのか、そんなこともあまり記憶に無い。院長が数日のうちに目を覚ますと言ったからにはもう大丈夫だと、子どもの頃に世話になった京一は誰より分かっていたのに、傍を離れることが出来なかった。手を離すことも。血が通っていないような冷たい手を両手で包み込むように握り締めて、額に押し戴いてずっと龍麻の名前を呼んでいた。声に出ていたのか、心のうちのことだったのかも、今は分からない。
感情の高ぶりが発勁を誘発したのか、京一の氣が龍麻にすっと届いていった一瞬があった。自分のしたことに驚いた京一が慌てて龍麻の顔を見ると、龍麻はほんの少しだけ表情を確かに緩めたのだ。回復術を持たない京一にはどういうやり方が正しいのか分からなかったが、出来る限り気持ちを落ち着けて呼吸を整え、龍麻の身体の負担にならないようにほんの少しずつ彼に氣を分け与えていった。休み休みやっていても、内気功が出来ない京一は全く回復する手段が無い。一瞬だけ気を失うように転寝をすることはあったがちゃんと寝てはいなかったし、回復アイテムを持ってくる時間さえ惜しくて龍麻から手を離さなかった。その結果が、これだ。
「俺、は…ひーちゃんが早く良くならねえかと思ってやっただけで…氣をやったらひーちゃんが楽そうな顔すっから…つい、その…」
龍麻が少しずつほんのわずか顔色を良くしていったのが嬉しくて、後先を考えなかった京一の行動で仲間たちに迷惑をかけたのは事実だから京一は俯いたままでぼそぼそと歯切れ悪く呟く。
「別に君を責めるつもりは毛頭無いよ、お門違いにも程があるからね。龍麻を思うなら、もうちょっと自分を大事にしろとは言いたいけどさ。龍麻はね、ずっと暖かかった、と嬉しそうに言っていたよ。君の氣のことだろう」
「そっか…へへへっ…」
ようやく顔を上げて、嬉しそうに照れくさそうに笑う京一から感じられる氣は確かに陽そのものの氣で、院長が苛烈だと評した意味が壬生には分かるような気がした。砂漠を焼き尽くすような灼熱の太陽とも感じられるし、うららかな春の日の陽光のようにも感じられる京一の氣は壬生にとってはあまりに眩しすぎる。陰の龍でもあり、裏稼業を続けてきた身を焦がすような眩しいまでの陽の氣。熱源と例えた院長の言葉もかくやと思われるほどの、圧倒的な光。自分には決して与えることが出来ない光や熱を龍麻に与えることの出来る、おそらく唯一の人物。
「ともかく、今晩は大人しく休むんだ。彼も…霧島くんもずっと君のことを心配してんだからね。弟子に心配をかけるようじゃ、師匠失格だよ」
「別に師匠ってわけじゃねェけど、まあ、心配かけちまったみてぇだな……」
京一が眠っているベッドに身体を寄せるように、椅子に座った姿勢で眠る霧島の頭を数回撫でて京一は穏やかに笑う。どこか龍麻が自分や劉に時折向ける笑みに似ていて、壬生は思わず息を詰めた。
「そういうこった、分かったら大人しく寝ろ。何か欲しいモンあったら買ってきてやるよ」
村雨の言葉に京一はぱちぱちと瞬きを繰り返して、お前こそ大丈夫か?と尋ね返す。真顔だ。
「あのなァ…人の親切に対するセリフかそれは」
「だってよォ、お前が、よりによってお前がパシリみてェな真似するとか有り得ねぇだろ。熱でもあんじゃねえの?あの…秋月、だっけか、あいつのことだってならともかく」
「京一くん、君ね、元気なのはいいけどもうちょっと言葉を選びなよ。村雨は夕方に病院に来てから」
如月は途中で口を噤み、ふいと顔を背けた。村雨の制する視線の強さに耐えられなかったわけではなかったが、自分が全て言っていいわけではないと思い当たったのだ。
「……悪ィ。ちょっと、驚いただけだ。ごめ…わっ」
言葉の続きを悟った京一が大人しく謝ろうとすると、村雨の大きく分厚い手が遮るように京一の髪をぐしゃぐしゃに撫で回す。幾度も混ぜ返し、指で梳くようにして整えてやって村雨は手を離した。
「で?何が欲しいよ?」
「飯、買ってきてくんねえか。諸羽の分も。コイツの分は後で俺が払うからさ」
「貧乏学生がつまんねぇこと気にすんじゃねえよ、馬鹿。ガキの飯代ぐらいで干上がるような甲斐性無しになった覚えは無ぇ」
最強の賭博師はそう言って、ぽんぽんと京一の頭を軽く叩く。そしてその場を離れた。
「如月、悪ィけどその馬鹿見ててくれよ。何ならいっそ力技で眠らせとけや。起きてたら先生ンとこ行きたがって始末に困るぜ」
「……そうするよ」
如月の同意が何を示しているのか分からず、京一が思わず身体を起こそうとしたが壬生に阻まれる。
「力技で眠らせて欲しいのなら、邪魔はしないよ?」
つまり、昏倒させて欲しいのかと尋ねているのだ。眉を寄せた京一は渋々布団の中に戻った。
「力技と村雨は言ったけれど、痛くない方法もいろいろあるよ?京一くん」
「お前ら…」
「忍びと拳武館の者を前に、抜け出そうなんて考えないことだね。気づいたら十日後、なんてこともあるかもね?」
2人のいっそすがすがしいまでの笑顔に、これは友好的な会話ではなく恐喝だゆすりだと京一は泣きたくなる。忍者である如月と、暗殺者の顔を持つ壬生を同時に敵に回すのはいかに剣聖と言われても分が悪すぎた。京一のように真っ向勝負を得意とする者にとって、彼らのように秘密裏に動いて事を為す人種は最も苦手なタイプだ。うう、と京一は唸り声を布団の中に篭らせながら離れた病室で眠っている相棒に心の中で呼びかける。
ひーちゃん、助けてくれよ!こいつら、お前の言うことしか聞かねえよ!たぶんっていうか絶対!
「そうやって大人しく寝ていてくれよ、余計な手間が省けて助かる」
「テメェら……覚えとけッ」
余計な手間とは何だ、何なら出て行けと言いたかった京一だが、如月と壬生相手に口喧嘩で勝てる見込みなど無いし下手なことを言えば力技で眠らされることが確定なので、そう短く吼えるだけに留めた。壬生はすうっと目を細めたが肩を竦めて如月と無言のまま視線を交わす。
「京一くん。君も龍麻も無事で、本当に良かった」
「……おぅ」
一つ言えば三つか四つの反駁を威勢良く返してくる京一だが、そもそもの性質が真っ直ぐなので何の裏も無い(ように京一には思われる)言葉には弱い。仲間に無事を喜ばれても尚、ひねくれた返事を出来る性格では無いので大人しく頷いたのだが、当の如月は京一の反応を見越していた。如月の言葉に警戒を解いて身体の力を抜いた京一の顔に片手を翳す。
「だからもう少し眠るといい」
何を、と京一が問いかける間も無く如月は軽い催眠の術をかけた。重力に従って目蓋が下りる。後に残ったのはすうすうと微かに聞こえる寝息だけだ。
「……お見事」
「京一くんは龍麻と違って術にかかりやすいからね。根が素直だからだろうけど。警戒を解いてしまえばこっちのものだ」
敵に相対するときとは違う警戒を仲間内に見せることが京一には間々あった。気骨だとか反発だとか幼さの入り混じったようなもので、徒党を組んで行動することを嫌う性分とも関係があるのかもしれない。敵ではないから、その警戒はちょっとしたきっかけですぐに解ける。たった一言でも。
「龍麻が聞いたら怒るんじゃないかな」
「……かもしれないね。使ったのは忍びの術だし、対象者は彼だし。でも、大事なのはそこじゃない」
「如月さん?」
如月は四神の玄武で、四神を統べる黄龍の龍麻とは深いつながりがある。その如月が龍麻の怒りなど重要なことではない、と言った意味が分からずに壬生は眉根を寄せた。自分であれば、龍麻を傷つけるものも彼の心を嫌な方向にざわめかせるものも許したくない。
「このまま延々と彼を寝かせずにいて、龍麻が目覚めたときに会わせられなければ意味が無いんだ。京一くんが元気ではないのも良くない。僕は龍麻と約束をしたのだし、無事で元気な京一くんの姿を見ることは龍麻の望みなんだから」
龍麻の意に沿う沿わないということは如月にとって大した意味を持たない。大事なことは、龍麻のためになることで、龍麻を守るためになることだ。その際に龍の怒りを買うというのなら、それは甘んじて受ける他無い。随意のままに動くことも如月には出来るのだから、両方を天秤にかけて如月はより龍麻のためになる方を選ぶ。他を欺き、時に龍麻本人の不興を買ったとしても。
「龍麻の望み、ですか」
「そうだよ。僕らはいろんな場所でいろんな意味で龍麻に助けられてきた。大げさに言えば救われたと言ってもいい。龍麻はたくさんの人々を救い、東京や世界をも救おうとしている。でも、だからこそ、一番救われなければならないのは龍麻本人だ」
「……」
「古今東西、救世主は常に孤独だ。トリガーもトリックスターも単独で起こす嵐であって、当の本人は何も救済されない。世を救って自らを磔刑にして、何の意味があるんだ。僕は龍麻をそんな風にしたくない。龍麻に課された宿命は重く、誰も代わることが出来ない。助けているつもりの僕たちの手でさえ、何一つ助けになっていないのかもしれない。それでも、僕は龍麻のために何かをしたい。龍麻の望みを叶えたい。龍麻が京一くんに逢いたいというのだから、それを叶えるためには手段を選ばないよ」
「……なるほど」
龍麻のためにやったことで、当の本人を怒らせていては本末転倒というか意味が無さそうにも壬生には思えたのだが、これは如月なりの龍麻との関わり方なのだ、と自分を納得させる。仲間ではあっても、誰もが龍麻との距離も位置も違う。共通するところは緋勇龍麻という一人の男に惹かれた、ということだけだ。
「それに」
如月はそう言い足して、穏やかな表情で眠っている京一に目線を落とした。普段強い光を放つ目が閉じられている京一の寝顔は、いっそ幼いと言っていいほどにあどけない。
「僕の望みでもあるんだ、これは。彼にはいつものように元気な姿が似合う。龍麻の隣で笑っているのがね」
だから、当の本人たちに睨まれても怒られても構わない。大事にしたいと守りたいと願う人の望みが自分のものとも重なるのだから、躊躇うことなどない。
「確かに……それは、そうかもしれませんね」
館長から話を聞いてずっと、壬生は龍麻に逢ってみたいと思っていた。逢えば何かが変わると思っていたわけではなかったが、館長が自ら手ほどきをした人間、さらに自分の技と対になる流派だと知れば否でも興味は湧く。館長は緋勇龍麻という人物について多くを壬生には教えなかったけれども、言葉の端々には深い情が滲んでいた。親が子どもに見せるような愛情と、過去への憧憬や何がしかの期待のようなもの。それが何であったのか、龍麻本人に会った後に話をしてみてようやく分かった。館長は龍麻の記憶に無い両親の友人で、龍麻の師で、黄龍の器という定めを生まれながらに負った龍麻をずっと案じていたのだ。
陰陽の龍、ということもあり同じ師についていたということもあって、龍麻は出会った当初からずっと壬生のことを気に掛けていた。誕生日を聞かれたときは意味が分からずに生徒手帳を開いてようやく答えることが出来たが、自分よりも後に生まれたと知るや否や龍麻は壬生を『弟』だと勝手に認定して前にもまして構い始めた。兄弟のいない龍麻は弟が二人も出来たと喜んで、壬生と劉を殊更構い倒している。龍麻が喜ぶことを壬生も劉も嫌がるわけが無いから、劉はいつの間にかアニキと呼び始めているし壬生自身も龍麻を他人とは思えない。
そんな龍麻の一番近くに一番長くいるのは、今ここで眠っている京一で出会った当初からそうだったとは言え、壬生としては面白いことではない。面白くはないし、どっちかというとついつい京一を苛めたくなるぐらいだが、それでもどこかで似合いだと思う。彼らは、二つそびえる高い山の頂に揃って立っているような感じがするのだ。同じ場所に立っているわけでも、寄り添っているわけでもない。一個として立っていながら、見ているものが同じで目指す場所が同じ、相棒と呼び合える関係。どこまでも対等な。だから彼らが隣にいるのは自然な光景で、壬生にとっても望ましい光景のように思える。
「……たとえば京一くんがすごく嫌な奴だったら、僕も君もこうは思わないんだろうけどね。残念ながら彼は嫌な奴じゃない」
何故そこにいるのが自分ではないのだ、と槍玉に挙げて責めたい気持ちが起きるほどの人間ならば、如月も壬生もおそらく劉も誰もが複雑な気持ちを抱えることも無かった。
「本当に残念ながら、ですね。でも、如月さん」
如月の言葉に壬生は少しだけ目を細める。
「うん?」
「龍麻が選んだ人間が、すごく嫌な奴のはずがないでしょう」
それは確信だ。今度は如月が壬生の言葉に笑う番だった。
「確かに。龍麻が選んで、彼も龍麻を選んだ。本人たちは選択したつもりなんてないだろうけど、ね……」
選択肢として並べ立てされていなくても、言葉の一つ行動の一つ、全て自分の選択に因って人は動いている。意識無意識に関わらず、本人の選択だ。緋勇龍麻という人物と共に闘うと、如月や壬生が決めたことも。
如月や壬生が望んだ光景が叶えられたのは、翌日の夕方のことだった。
初の主京。本人たち、顔すら合わせてませんけども(笑)。この翌日、四日目の昼頃に二人は再会を果たしてさらに翌日の五日目にはクリスマスイブなのでクリスマスデートです。ですので、まだ告白はしてませんお互いに。お互いの執着と干渉が並大抵では無いので、周りが先に『あー…』って気づいちゃった系。しかも龍麻の仲間って勘がいいのが多そうなんだよな。皆が皆して龍麻を見てるんで、当たり前っちゃ当たり前か。
タイトルの龍はもちろん龍麻、鷁は京一。鷁は龍と同じ、想像上の生き物。風を恐れず速く飛ぶ水鳥で、平安時代に貴族が水遊びに使った船の両端に龍と鷁の頭をあしらっていたりします。いわゆる、龍頭鷁首。
