magic lantern

だから全てを


「…………。いや、予想はしてた、予想は。うん、予想してたけどさ、予想…」
予想以上の落胆からくるショックで龍麻は一人でぶつぶつと同じことを繰り返しながら、はあと大きなため息をつく。シャワーから上がって身体を拭いていたとき、やけに静かだな、と嫌な予感がしたのだ。待ってろと言って頷いたのに寝てるなんてそんなベタな、と呆れはするものの実際に目の前ですうすうと寝息を立てられてしまってはどうしようもない。
「あのままぶっちぎるべきだったか……」
風呂に入ると京一が喚いた時に、たとえ離さずなだれ込んだとしても翌朝学校に着く前には京一の機嫌を直す方法ぐらいいくらでもあったのだ。そもそもが怒りを持続できないタイプで、絆されやすくて流されやすい京一だから学校帰りに王華のラーメンをおごるとでも言えば即座に上機嫌になりそうなものだ。
「おれのバカ……」
何だかやけになって逃げようとしていた京一は確かに龍麻と同程度興奮していたし、あのままなだれ込めば今までに見たことのない姿を見られたかもしれない。逃した魚はかくも大きい。
また大きなため息をついた龍麻は、京一がなんだか不自然な体勢で眠っていることにようやく気がついた。普段、ベッドで寝るときは足も伸ばすし手も伸びていて、大の字になって寝ていることもある京一なのに今はソファの一角に身を丸めるようにして小さくなっている。子どものような、何かの動物のような。
「ん?」
龍麻が京一の髪を乾かすのに使ったタオルは、そのまま龍麻がソファの背もたれにかけてリビングを離れた。京一はタオルの傍で器用に丸まって眠っている。さっきまで、龍麻が座っていた場所だ。時折身じろいで、身体をソファに擦り付けるようにして何事か唇を動かす。
「たつ、ま……」
「ッ!!」
すり、と顔を動かして手足がもぞもぞと動いている。何かを探して。
「反則だろ、お前…」
さっきまでの京一のように龍麻は頬を染めて、髪をぐしゃぐしゃにかき回した。どうしてくれようか、と思案する間もなく京一に覆い被さって少しばかり冷えた唇に自分のそれを重ねる。
「ん……ん…?」
違和感を覚えたのか、京一がむずがって小さく唸った隙に舌を差し入れて強引に絡めた。
「…っ、ん、んん……」
「京一……」
キスの合間に名前を呼ぶと眠たそうに目が何度か瞬いて、薄っすらと開く。
「龍麻ぁ……おやすみ…」
「え、ええっ」
舌っ足らずな呼び方に目を細めたのもつかの間、本格的に寝入ろうとした京一に思わず龍麻は情けない声を上げた。
「ちょ、京一、するって約束しただろ」
約束というには強引だった自身の行動は全く省みずに龍麻が言い募ると、京一は眠たそうに目を半分だけ開けてあっさりと言い放つ。
「悪ぃ疲れたから寝ようぜ」
そこまではっきりと喋ってから、また目を閉じて眠ろうとした。ただし、今度は身体を小さく丸めずに龍麻に抱きつくようにして。
「……お前…」
犯すぞテメェ。と言いたい気分にはなったのだが、寝込みを襲う趣味も寝起きを襲う趣味もあるが本当に寝ている人間に無体を強いる趣味はない龍麻はため息をつくに止める。
「京一、眠るなら眠るでいいからベッド行け、ここじゃ風邪引く」
体格差がさほどないので担ぎ上げていくわけにもいかず、まして引きずっていくわけにもいかない。軽く起こそうと頬を叩いた龍麻に京一はますますしがみついて離れず、さっきからしたくてたまらないのにましてしがみつかれては龍麻も自身を宥めきれず、慌てて京一を手荒にたたき起こした。
「起きろ、せめてベッドまで自分で歩け、寝るんだろ」
「んー……ひーちゃんも」
「あーはいはい」
寝ぼけている人間と酔っている人間には逆らわないことにしている龍麻は適当に相槌を打って京一を立たせ、寝室に追いやってベッドに放り込む。布団をかけて室温を整えたところで、情けなくもすっかりその気になってしまった自身を収めるべくトイレに行こうとした。
「……京一、離せって」
なぜかさっきから龍麻のことを抱き枕にして離さない京一は、ベッドを出ようとした龍麻に気づいたのかぎゅうと抱き込むようにして身体を巻きつける。接近されればされるほど限界に近づくわけで、龍麻は慌てて引き離して逃げようとした。
「どこ、行くんだよ」
乱暴な仕草で起きてしまったのか、不穏な気配を察したのか、京一は上半身を起こして寝室の入り口でドアを開けようとした龍麻に不満げな声を投げる。
「どこって…いいから寝てろ、眠たいんだろ」
あれだけ抱きつかれて、帰宅直後からしたいと思っていて、こうならないほうがおかしいと思うのだが情けないやら空しいやらで何となく声は荒くなった。
「ナニしようとしてんだ龍麻」
ここに至って、龍麻はようやく京一が覚醒していることに気がつく。自分の状況を余すことなく知られてしまっていることも。
「何ってナニだろ言わすなバカ」
恋人が家にいて、なのに独りで処理せざるを得ない空しさを分かれこの野郎と微かに苛立ちを込めて龍麻が返すと京一はふん、と顔を逸らして拗ねたように唇を尖らせる。
「無駄弾打つつもりかよ、勝手に」
「……無駄とか勝手って何だよお前の許可がいるってのか」
お預けも長すぎると単なる苦痛なわけで、龍麻には会話を長引かせようとする京一の意図が分からず、なおのこと苛立った。起きてはいるようだがしようと言うわけでなし、誰のせいでこうなっているのか分かっているくせに無駄だの勝手だのと言うぐらいなら放っておけばいいのだ。
「お前のは俺のだからな、勝手すんじゃねえ。俺に全部寄越しやがれ。ついでに言うと、的を外した弾なんてェのは全部無駄弾に決まってらァ」
「…………」
「お、おい?龍麻?」
フリーズした、としか見えない龍麻の様子に京一が慌てて立ち上がろうとしたが、その矢先、龍麻に飛びつかれてベッドに逆戻りした。
「煽るようなこと言うな、こっちはとっくに限界超えてんだぞ!!」
抱きすくめられ、ベッドに押し付けられた身体には確かに限界を超えているのだろう龍麻の様子がはっきりと分かる。
「するって言っちまったからな、眠たくてそのまんま寝ちまおうかとも思ったけどよ……」
興奮しきってめちゃくちゃな順序で服を脱がせようとする龍麻を宥めながら、京一は口の端を上げてみせた。
「何か情けねェ姿のお前見てたら、すっげェしたくなって目ェ覚めた」
京一のことが欲しくて欲しくて、でも無理強いが出来なくて己を追い詰めて勃たせている情けない姿を見て、仲間たちに慕われて誰よりも強い緋勇龍麻という男をここまで追い詰めたのは自分の存在なのだと改めて気づき、京一は即座に覚醒した。そして同時に、龍麻を甘やかしてやりたくなった。
「もう何でもいい、何でもいいから」
熱に浮かされたように龍麻はそう繰り返して京一の身体を組み敷く。京一は未だ笑ったまま、落ち着きなく至るところにキスをする龍麻の顔を眺めた。
常日頃、人前であろうとなかろうと可愛い可愛いと京一に向かって言うのは龍麻だったが、京一にすれば龍麻のこういうところはとても可愛いと思うし、こういうのが本当に可愛いというのだと思う。みっともなくて、なさけなくて、でも一生懸命で、精一杯で。緋勇龍麻という人間の中には、今、京一のことしか入っていない。身体も心も京一でいっぱいにしている姿を見ていたら、どうしようもなくたまらなくなって、多少眠かろうが疲れていようが腹が減り始めだろうが付き合ってやるぜ、と思えるのだ。
可愛くて、情けなくて、いっぱいいっぱいで。
仲間内で誰よりも強く、全員に好かれていて慕われていて、望みさえすれば手に入らないものなど無いのではないかと錯覚してしまうほどに恵まれた男。そんな男に乞われて望まれるのは、身体的な意味では無く、とても気持ちがいい。なりふり構わず自分を求めてくる様に、眩暈にも似た快楽を覚える。
「京一、京一……」
うつろに名前を繰り返しながら性急にことを進めていく龍麻の髪はまだ少し濡れていて、京一は指を絡めて弄んだ。全てが開かれている、と思う。龍麻の持っているもの全て、存在そのものが京一に明け渡されている。
一つのものになりたいなどと夢想したことは無いし、互いの存在は交わっても重ならないと理解している。同じではない、どこも似ていない。でも、龍麻が全てを京一に明け渡して与えているように、京一も全てを明け渡して与えている。分け合って共に歩むなんて優しい生き方を選ばずに、互いに全てを与え合って受け入れるような生き方を選んだ。いつ来るとは知れない別れも、戦いの最中訪れるかもしれない死でさえも。
「なァ……っ、ん……龍麻、イイこと、教えてやろうか」
「…なに……?」
上がりきった息の合間に京一がそう言って笑ってみせると、龍麻は少しだけ動きを止めて視線を合わせた。
「俺、お前のことすげェ好き」
強くて、いつも落ち着いていて、誰からも頼られて慕われているリーダーとしての龍麻などではなく。
「切羽詰まってる顔とか、情けねェとことか、すっげ好き…ッ、ふ……」
言葉尻はそのまま龍麻の唇に飲み込まれ、京一は両腕を龍麻の背に回して掻き抱いた。





別ジャンルの絵茶で漲って出来てしまった主京がこれ。
するしないで攻が粘って「お風呂に入ったらいい」とOKをもらうが、上がってきたら「やっぱ寝よう」と言われる。
という一連の流れ(絵茶ではその後全然違うオチがついてました、そっちも萌えた)で、前々から使いたかった「無駄弾打つな」を組み合わせました。皆守が言ったら、言ったシーンの前後がもう18禁だから京一で。京一は「自分ではすごく攻のつもりで攻めてるんだけど気づいたら受」っていう個人的にすごい萌えるタイプ。