ワールドエンド・フューチャー 前編
「……ンなとこで何やってんだ虎徹。部屋に入るなら目ェつぶってやるが、そうじゃないならナース呼ぶぞ」
「ちょっとでいいから、ここで目ェつぶっててくれよ」
とても動ける状態では無い、と聞かされているはずの親友が病室前の長椅子に座っていてアントニオは重いため息をつくことしか出来なかった。
「なあ、バニーちゃん目が覚めたんだよな」
「ついさっきな。……何で入ろうとしない。自分で確かめればいいだろ」
アントニオの前で虎徹はふるふると首を振って、俯く。力が入らないのだろう、握り締めようとした手は震えていた。
「そんな資格、無い。俺はもうあいつに合わす顔がねえよ……」
「アジトでジェイクを取り逃したことか?多少なりとも犠牲は出たが、結果的には収まっただろ。第一、あの場をバーナビーに任せても、あいつと折紙が無事に戻ってこれたかどうか分からねえ。ジェイクをあの場で捕まえられたかも分からねえ以上、今さらお前がそこまで罪悪感を持たなくてもいいんじゃねえのか」
また虎徹はアントニオの言葉に首を振る。力無く首を振って、虎徹は続けた。
「……上手く行ったかもしれないだろ。引立て役で足引っ張ってばっかの俺が出張って、バニーの邪魔したからこういうことになって、セブンスマッチだの馬鹿みたいなショーやる羽目になってお前とスカイハイまで余計なケガさせて、バニーだって傷ついて、市民に醜態晒して…!あいつは俺なんかよりずっと能力があるんだよな。何たってランキング二位のバーナビー様だもんな」
「お、おい、虎徹?お前何言ってんだ?」
バーナビーと虎徹の間にあったやりとりをアントニオはほとんど知らない。最近やっとコンビらしくなったと思い始めていた矢先の出来事で、いきなり虎徹がこんな自虐的なことを言い出す意味が分からなかった。らしくない、どころの話ではない。虎徹は自らを嘲るような笑みを零す。
「俺を信じろなんて言って、俺は何様のつもりだったんだろ。別に自分が何でも出来ると思ってたわけじゃない、バニーが失敗すると思ってたわけじゃない、あいつなら俺よりずっと上手く出来たはずだ。……コンビだの相棒だの、馬鹿みてえだな。俺にはもう、そんな風に呼ばれる資格はねえ。あいつだってもう俺なんかに足引っ張られるのごめんだろうし、いよいよ潮時ってヤツかねえ」
「っちょ、おい、虎徹!?お前本気で言ってるのか!?」
まさかの引退宣言に思わず大声が出る。迷惑そうに虎徹は顔を上げてアントニオを眇めたが、顔にも目にも、まるで覇気が無かった。箍が外れたとか壊れたとかいうよりは、自暴自棄に近い印象を受けるだけマシだと一瞬思ったが、二十年近い付き合いでこんな姿を見たのは過去一度きり、あの時だけだった。
「…大声出すなよ馬鹿。バニーに気づかれるだろ。コンビが嫌ならクビだってさんざ言われてるし、信じられない人間とコンビ扱いされるの、あいつももううんざりだろうし……悪いな、アントニオ」
「マジか」
妻と死別した時も、似たような感じだったとアントニオが記憶の糸を手繰っていたとき、不意に横の引き戸が開く。さっきの声に気づいてブルーローズ辺りが出てきたのかと思いきや、そこに立っていたのは意外な人物だった。驚くアントニオの影で見えないのだろう、虎徹は気づかずに続ける。
「なあ、俺はどうしてこうなんだろうな。……俺は自分の目の届かないところでバニーがまた暴走してまた傷つくのかと思ったら待ってやれなかった。俺が傍にいたって何も出来やしねえのに。俺はアイツを護れなかった、楓にだってたくさん辛い想いさせてヒーロー続けてきた結果がこれだ。護りたいと願えば願うほど、空回って誰かを傷つけて、心配してるつもりがただ自分の気持ちを押し付けてるだけで、誰のためにもなってない」
「なァにがこの能力は人を助けるために使う、だ……馬鹿みてえだ……」
「……本当に馬鹿ですよ」
ファイアーエンブレムに支えられるようにして立っているバーナビーには、泣いた跡がある。そのことにアントニオが気づくのと、虎徹が弾かれたように立ち上がって踵を返そうとしたのは同時だった。
「ッ、おじさん!」
震えているバーナビーの声に重なるようにして、虎徹が走り出そうと踏み込んで、その場に倒れこむ。慌ててアントニオが身体を起こそうとしたが、震えている手で撥ね退けようとした。またずるりと身体を倒れこませそうになって、今度こそアントニオが両肩を掴んで確保する。
「タイガー、貴方絶対安静だって…」
床を擦るように歩いてくる足音が近づく度に虎徹はびくりと震え、アントニオの身体に顔を埋めてぎゅっと抱きついた。こちらを見るバーナビーの視線が険しいどころのものではなくなっていくのを感じながら、アントニオはぽんぽんと虎徹の頭を叩く。
「大丈夫、大丈夫だ。とりあえず病室戻るぞ。お前もコイツも動かしていい身体じゃないからな」
「……ええ」
力の入らない身体で抗おうとする親友を無理やり担ぎ上げ、嫌だ嫌だと小さく呟く声を聞かなかったことにしてアントニオはバーナビーと支えるファイアーエンブレムと共に病室へ戻った。何があったのかと驚くヒーローたちをとりあえず連れ出して、それでも心配で誰もがドアの前から動けない。
「ねえ、タイガー起きてて大丈夫なの?」
「…ヤバいわよ。座ってられる身体じゃあないわ。でも、あの二人には話す時間が必要よ。アタシたちNEXTは身体こそ丈夫に出来てるけど、身体が治ればいいってものでもないデショ」
「またみんなでヒーロー出来るよね…大丈夫だよね?」
大丈夫、そして大丈夫だ!というスカイハイの声をどこか遠くに聞きながら、アントニオはバーナビーの病室のドアを見つめた。中からは、何の音も聞こえてこない。いっそ怒鳴りあって喧嘩をしてくれれば安心するのに、そんな気配さえ無いのだった。
→後編
12話見てうわあああああってエスケープしたいのを抑えて書いたんで、すごい恥ずかしいけど、これが兎虎書く上で書きたいコアな部分に近い。
