magic lantern

愛してるって言ってくれ。

「リーダーは俺に愛が足らないと思います」
いつものようにジュネスのフードコートで現状と天気予報を確認し、これからの作戦を立てていた時のことだ。とりあえずの方針が立ったので、遊ぶ予定とかたわいもない話をしていたはずだったのに、唐突に陽介がそう言い出した。
「花村〜アンタね、いきなり何言い出してんの」
「そうよ花村くん、月森くんだって困ってる」
困るというかむしろ。
「それは心外だな、おれの愛が伝わっていないということか」
愛が足らない、と当の陽介に言われるとは思わなかった。お前、ここがジュネスで自分が有名人だって自覚がないだろう。
「いや愛とかアンタらさ…」
「だってそーじゃんかっ!こないだ俺が遊びに行こうっつった時は一条たちと遊びに行ったしさ、一緒帰ろうって言ったら部活いくとかいきなり言い出すしさ!」
「他には?」
意気込んでいた陽介は、おれが尋ね返すとうっと言葉に詰まってしまった。女子は顔を見合わせている。
「なんか…電話しても忙しそうだし…いっつも、誰かと一緒だし…俺は、……」
「寂しかったならそう言え」
「ばっ……何、言って、え?」
言いながら立ち上がり、周りから見えないような角度で陽介の顔を掴んだ。きょとん、と目を丸くして半開きになったままの唇に自分のものを重ねる。
「!!ん、んー!!」
今更になって状況に気がついても遅い。後の祭りって言葉知ってるか陽介。強引に舌を差し入れて、逃げ回る陽介のを捕まえて絡め取った。
「ッ、…ふ……ぁ…」
存外に陽介の声がエロくて、このままがっつきたくなったがそんなことしてる場合じゃない。他の客には見えなくても、仲間にはばっちり見えてる。まあ見せてるつもりだけど、おれは。陽介はおれの背中をがんがん叩いてるが、真横から見ると、おれにしがみついてる格好になってるの分かってるかな。
「…は、…ぁ……っ、ん…」
愛がどうのこうのと言い合ってはみたが、おれと陽介は別にお付き合いをしてるわけでもなければヤリ友ってわけでもない。言葉の綾というか、陽介としてはいつものふざけた物言いのつもりだろうと分かってはいる。でも、よりによってお前への愛を疑われて、いつもみたいに落ち着いてられるか。
「……ッは、…テメ、マジ、どーいう…」
叩かれた背中はそこそこ痛い。どうせなら凝り気味の肩甲骨辺りを叩いて欲しかったと思いながらぺろりと舌で舐めた。
「愛情表現だろ」
「バカかお前は!!頭良いくせにバカ!!おま、なんつー…なんつーことを」
目の端がぼんやり赤くなってるのが可愛いなと思わず笑うと陽介はぎっと涙目でおれを睨みつける。まさかファーストキスか。それはそれはご馳走様でした。おいしゅうございました。
「よりによってお前がおれの愛が足らないとか言うからだろ、おれは公衆の面前でキス出来るぐらい愛してんのにさ」
「いやお前愛とかそーいうのは言葉の…ってオイ!!!!」
ここがジュネスのフードコートで、側には里中たちがいるってことに陽介はようやく気がついたらしい。遅い。それぐらい気持ちよかった、ってんならまあ嬉しいけど。
「えーっと、なにから聞けばいいのあたしらは」
「月森くん、その……」
里中たちは微妙としか形容出来ない表情をしていて、陽介はさらに顔を赤くした。
「ああッ!もうお前何やらかしてくれてんだ!つうかお前、ボケるにしても身体張りすぎだろうがよ!!」
オマケに俺まで巻き添えにしやがって…と陽介はぶちぶちと文句を言いながら尚も睨んでいる。
「落ち着け。別におれは陽介とお付き合いしてるわけでもセフレってわけでもないけど」
「いやお前そういうの女子に聞かせんな、よりによってこいつらに聞かせんな!!」
ぎゃーす、と騒いでいる陽介は可愛いというか、女の子に夢を見すぎというか。いやそういう潔癖っぽいとこ、可愛いけどね。
「まあそれは現段階の話であって。おれ個人としては陽介に対する愛情を疑われるのは癪なので主張したってだけ」
「現段階も何もお付き合いする予定なんて一生……ん?」
陽介はようやくおれの言葉に気がついたらしい。さっきまでもかなり顔が赤かったけど、今度は首や耳まで真っ赤になってしまった。
「月森くんって…花村くんのことが……その…」
「つまりー、月森くんとしては花村が好きだってこと?その、ライクじゃない方面で」
「正解。ザッツライト」
「え、えええー!?」
女子二人分の叫び声に、陽介はぱたりとテーブルに伏してしまう。あーあ、真っ赤な顔もっと見てたかったのに。
「なんていうか、こういうこと告白しといてそこまで飄々としてるのも逆にカッコいいね。堂々としてて」
「別に恥ずかしいことじゃないだろ、誰かを好きになるなんて当然のことだし」
そう返すと天城はすごいね、と言ってくれたが里中は未だに困惑しているようだった。
「いやそれはそうなんだけどね?なんていうか意外すぎてあたしらも反応に困るっていうかね?いや別に嫌いになったとかそーゆーんじゃなくてさ、なんていうかな、偏見…とか無いつもりだし、それに」
「落ち着け、そもそもがおれの片思いだし、陽介は普通に女の子大好きなんだから、叶う見込みはない恋だって分かってるよ」
「陽介?」
テーブルに突っ伏したまま、ぴくりとも動かない陽介に声をかけると、大げさに身体がびくりと反応した。
「とりあえず、里中たち以外は見てないから」
ああ、キツネは横できょとんとしてるけど。まあキツネは誰かに喋りまわったりしないし出来ないし。多分、おれの恋路とかどうでもいいしね、こいつ。
「そういう問題じゃねえよバカ野郎」
「バカって言ったほうがバカだって知ってるか?」
「……どうせ俺はバカだよ、んでもってお前はひきょーだ」
いつの間にか、おれたちを置いて禁断の恋の話に盛り上がっている里中と天城には声は聞こえていないようだった。禁断じゃないとおれは主張したいけど、まあ他の人がどう思ってもそれは関係ないしね。
「よく分かってるじゃないか、おれは卑怯なんだよ。お前が欲しくて、手段なんか選んでられない」
陽介は授業中よく寝てるし、テストの成績もあまり芳しいものじゃない。けど、そもそも機微に敏いのでこれからどういうことになるか、だの二人がこれからどういう態度を取るか、だのそんなことは予測がついたんだろう。おれがそれを狙っていたのだということさえ気づいている。
この年頃の女子は皆そうだろうと思うけど、自分の恋にも誰かの恋にも興味がある。目の前で片思いの相手を明かしてみせれば、おおっぴらに応援してくれることも変に気を回してくれることだって、分かってる。下手すれば、それが広まっていくことも。まだ犯人が分かっていない以上、これからつるむ機会が増える一方の仲間うちだけに明かしたおれの意図を、全部理解したんだろう。
「一つ教えとくけどな」
そんな卑怯なおれの服の裾を摘んで、陽介はちょいちょい、と引っ張った。
「ん?」
「俺は変化球で振らせるより直球勝負のピッチャーがいい。ストレート投げろバカ」
「……りょーかい」
じゃ、今度はストレートでな。愛してるって言ってやるよ。



これ、二週目とかで豪傑で言霊使いの主人公でないと出来ないですね…。完二のことを調べてる辺りかな。