magic lantern

READY

「で?謎は解けたのか、ゼリグ将軍」
「……は?」
一晩共に過ごした、翌朝。甘ったるい空気など望めるはずも無い相手だと、ゼリグ自身よく分かっていたがそれでも、テジロフの第一声に首を傾げる。
テジロフは昨晩の名残をいくらか引き摺った、気だるい仕草でゆるゆると服を身につけていたが、不意にベッドの上のゼリグを見て笑った。
「ああ、お前が髪下ろしたトコ初めて見たな。そーなるのか」
「いや…昨夜も途中から解いてたって。──なあ、テジロフ」
長く下りた髪をがしがしと掻いて、ゼリグが次の言葉を言いあぐねると、いつもの姿に戻ってしまったテジロフがベッドに腰掛けて顔を近づけてくる。陶器人形にも似た、抜けるような白い肌。ぐっと近づいてきたことで首元に悪戯で残したキスマークが見え隠れした。
「お前と寝たのは何となくで片付けてもいいけど、別に理由が無いわけじゃない。まず第一に、あの時にエロいことする気分だった。俺はエロいことが大好きだけど相手はちゃんと選ぶ。で、お前なら別にいいと思った。まず面倒なことにならないし、お前手先器用で楽しめそうだしな。まあ、そこら辺が理由なわけだが──」
予想を裏切らないテジロフの奔放さにゼリグが呆気に取られていると、尚もテジロフは顔を近づけてにやりと笑う。色気だの何だのを抜きにしても、人をぞくぞくさせる笑みだ。敵対している最中にこうやって笑まれたなら、どれほど面白いだろう。
「俺がそう思える相手は他にいないわけじゃない。他に相手を探すことが出来るのにお前と寝たのは、お前が俺に挿入て何を得ようとしてるかに興味があったんだ。だから聞いたんだよ、謎は解けたのかって。イイ音は鳴ったか?」
──これ、だ。
ゼリグは自分の口元がつりあがっていくのがはっきりと分かった。これだから、この男は。
「ああ──鳴ったさ、たった今、な。でもよ」
テジロフの片腕を無理やり引き寄せて体勢を崩し、もう片方を腰に回してしっかりとホールドする。突然のことに対処出来なかったらしく、ゼリグの腕の中でテジロフはぱち、と瞬きをして不思議そうに見上げてきた。
テジロフは、本物の天才だ。最強と呼ばれるに相応しい、あらゆる力を身につけている。キラーでもない男が、キラーを殊に偏重するきらいのある世界で『最強』『天才』と呼ばれてどれくらい経っただろう。
『神の落とし物』
もはや、それは人の範疇ではないのだと畏怖する者さえ現われる始末だ。神に愛されている、山ほどギフトを受け取った男はどこまでも透徹している。折れない鋼のような、ゼリグにはまだはっきり見えない芯が一本あって、それだけが男を動かしていた。その芯がブレない範囲のことなら、テジロフは驚くほど寛容でなおかつ気まぐれだ。
──オレは確かにお前に興味があったから寝た。お前がどんなヤツなのかもっと知りたいと思ったから。でも。
「今回ばかりはこのオレ様でも食いきれねーんだよな。だから、ゆっくり時間をかけようかと思ってんだ」
──先に知りたがったほうが、こういう駆け引きは負ける。欲の深い方が。
「イイ音ってのは何度聞いても気持ちイイもんだ。だろ?」
──お前も同じタイミングでオレに興味があったというなら、オレたちは互いに興味を持っていることになる。互いに相手を知りたいと望んでセックスを重ねて、謎が解けた後に残るのが何なのか、相手の底がどこにあるのか、全て解き明かした後に互いがどう思うのか。何が変わって、何が変わらないのか。
「……そうかもしれないな」
テジロフはふっと息を吐いて、裸のままのゼリグにもたれかかる。手慰みなのか決まりが悪いのか、背中まであるゼリグの髪を摘んで遊び始めた。

これもまた、ゲームだ。
景品は自分自身。
どちらかが飽きるまで、どちらかが相手を暴き尽くして底を見極めるまでの、ゲーム。

「じゃ、そういうことで」
ゼリグはくいっと首先だけを近づけてテジロフと軽いキスを交わす。ニンテルドよりも北方から来たという男は、唇すらどこかひんやりとしていた。

ゲーム、スタート。






こういう流れを経て『やることやってるけどお互い油断ならないと思ってる』感じの関係のまま時間が経って、でも秘密の共有だの何だのあって気づいたら恋人同士みたいな空気が漂ってたり、アイコンタクトできたり出てこない言葉を代弁したり(それなんて兎虎)すればいいんじゃないか。
まるで恋人同士みたいな状態になってる現状をお互いが『いやいやいや。無い。絶対無い。アイツだけは無い』って思ってるとさらにいい。でもアレだけは無い、と思っててもどうしても気になって知りたくてやっぱやることやっちゃって、気づいたら泥沼で、お手上げ…って言い出すのはやっぱテジロフかな。
だって詰みあがっちゃったらゲームオーバーだから。消化し切れない(だって棒入れられないし)ものが詰みあがって枠を超えたとき、テジロフが降参って言えばいい。テジロフが降参して下りようとしても、ゼリグ的にはまだ解き終えてないんでがっちり離さない。