magic lantern

のこったものは

トリニティがイナクト単機に強襲され、ミハエル=トリニティ及びヨハン=トリニティの死亡が確認された。刹那とラッセがトレミーに見せた通信映像ではミハエル=トリニティの専用機であるスローネ・ツヴァイを駆るアリー・アル・サーシェスの姿が映っていた。
左目を眇めるようにしながら映像を眺めていたロックオンは、アリーという人物を初めて視認したことに大した感慨を覚えない自分を冷たい気持ちで認めながら、ほとんど姿を残していないスローネ・アインのパイロットのことを思い出していた。


あれは、いつだったか。
トリニティのメンバーがトレミーにやってきた時だったか、全く別の機会だったか。よくは覚えていないのだが、ヨハンと名乗った人物が自分に向けた真っ直ぐすぎる視線だけをよく覚えている。
『ロックオン、君は何のために戦っている?』
『おかしなことを言うな、あんた』
『そうかな』
『そりゃ、自分自身の存在意義を自問してンのと一緒だろうよ』
目的は同じだと、確かに彼はそう言ったのだから。
もうここに親や妹を亡くして泣いていたニールはいない。生き抜くことに必死で、家族を奪ったテロを憎みながら銃を持っていたニールはいないのだ。
ロックオン=ストラトスは、ただ、戦争根絶をガンダムで訴えるためだけに存在している。
『……そうだろうな』
しばらくの間があって返事をしたヨハンは何故か気落ちしているように見えて、世話を焼く対象ではないと分かっていながらロックオンは不承不承声を上げた。
『俺たちは戦争を続ける世界を変えるためにガンダムに乗っている、紛争根絶をガンダムで体現する、そうだろう』
『ああ』
ロックオンがそう告げると、ヨハンはゆっくりと笑ってやはりゆっくりと頷く。安堵した、としか思えない表情にロックオンが違和感を覚えていると、ヨハンは手短に礼を言ってすぐに姿を消していった。


前に、インド洋で自分と刹那の間にとんでもない爆弾を落としていったのはヨハンで、けれどあの時、自分の言葉に安堵して笑っていたのもヨハンだった。
トリニティが本当に何を目的にしていたのか、ボスは誰でどうやってヴェーダの情報をハックしていたのか、指揮系統はどうなっていたのか、今は何も知る術が無い。もはや無くなった、と言ってもいい。
木っ端微塵になっていたスローネ・アインは、いつ来るか分からない未来のデュナメスで、エクシアで、キュリオスでヴァーチェだ。擬似GNドライブもろとも姿を消した彼はそう遠くない未来の自分たちだ。
分かっていた事実を目前に突きつけられても、ロックオンの残された左目に涙は出てこなかった。
ただ、彼が最期まで信じるもののために戦っていたことだけを、願った。









ヨハロク、追悼もの。ヨハンの最後の叫びや涙や思いを、誰かに知ってて欲しかった。