magic lantern

わたしは あなたがこわい

何の話をしていたのだったか。それまでの会話が当たり障りの無いとりとめも無いような会話だったから、急に話題転換が図られた途端にロックオンはそれまでの会話内容をほとんど忘れてしまった。
「ね、あります?こわいもの」
「こわい、ねえ」
思い出しているような顔をしながら、ロックオンは数秒前のアレルヤの言葉を思い出す。
『……ロックオンには、こわいものがありますか?』
それは、嫌いな食べ物は何ですか、ぐらいの軽い響きだった。アレルヤの声からロックオンは言葉以上の重さや深さを感じとれなかった。けれど、多少なりともアレルヤのことを理解していると自負するロックオンは、思い出すふりをしながらかなりの速さで思考を回転させていた。
「僕は、起きるのが怖かったんです。やっと一日が終わったのに、寝て起きてしまったら次の日が来てしまう。ずっと眠っていたかった」
「……」
アレルヤの中にハレルヤという別人格が存在することも、アレルヤが人革連の超兵を前にすると正気を保つことが難しいことも、とうにロックオンは理解していた。別人格を作らざるを得ないほどのことを幼いアレルヤが耐えたから、今ここにアレルヤがいるのだ、と。
「今は?今も、そうなのか?」
ベッドを共にした後、アレルヤはロックオンが眠るまで起きているし翌朝ロックオンが起きる前には既に起きていて、コーヒーを持ってくるのが常だ。いつ寝ているのか、と思ったこともある。超兵施設を自分の手で破壊した今になっても、身体や心や魂に刻まれてしまった恐怖は消えないものなのかも、しれなかった。
知らずに上擦ってしまった自分の声にロックオンが罰の悪い気持ちを覚えていると、目の前に座っているアレルヤはゆっくりと笑って首を振った。
「……いいえ。そんなことはないですよ。朝の空気だとか、朝日の景色も好きになりましたしね。明日ロックオンに会ったらどうしよう、何を話そう、とか考えながら眠るのはとても楽しいですし」
「そ、そうか……」
今度はやたらと恥ずかしい気分になって、ロックオンは視線を外して俯く。
「それにね、ロックオンの傍で眠る時はあなたの顔を見ながら眠れるし、目覚めて一番にあなたの顔が見られるから、とても幸せなんです」
幸せいっぱいです、と顔に書いてあるアレルヤに反駁する気力も無く、ロックオンはずるずると上体をテーブルに倒した。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。これは何だ。純粋ってある意味凶器じゃないのか。
「ロックオン?……ごめんなさい、気を悪くしましたか?」
そう言うアレルヤに、おそらく悪気は100%無い。だから余計にタチが悪いのだ、と思いながらロックオンはテーブルから顔を上げずに頭を振る。
「そういえばロックオンは何がこわいんですか?」
「……純真無垢なお子様、かな……」
お子様というにはアレルヤは育ちすぎているけれど。
ロックオンがかろうじてそう答えると、アレルヤは刹那のことですか?ある意味ティエリアのことなのかな?などと首を傾げていた。



飄々としていたいのに、簡単にその仮面を剥いでしまうお前が、
誰かに執着などしていたくないのに、言葉一つで体温さえ操れるお前が、
溢れて身動きが取れなくなるほどの「好き」を押し寄せてくるお前が、

俺は、怖いよ。

感情の最中に引き摺り出されて、見たくもなかった自分の本音を見せ付けられて、
平静を保つことなど不可能になって、それでも笑って好きだと言ってくるお前が、

とても、恐い。


わたしを「恋」に突き落とすのは、あなた。

わたしは、あなたがこわい。







管理人はいろんなものに夢を見すぎです。白昼夢どんとこい。