magic lantern

霧が晴れたら

AEUの新型モビルスーツを偵察に訪れた基地で、カタギリは最新型のモビルスーツをあっさりと沈めた未知のモビルスーツに出会った。同席していたグラハムはその性能にすっかり心奪われたようで、さきほどから何度もガンダム、と興奮気味に口走っている。
「…ん?見なよ、グラハム」
モニタに映し出された、古い映像記録がソレスタル・ビーイングなる組織を名乗り人類が起こす紛争全てへの武装介入を表明した。映し出されているのは、一人の老人。
映像がスタジオに切り替わった時点でカタギリはモニタの電源を落とす。隣にいるグラハムは、声を上げて笑っていた。
「はははははっ!これは傑作だ!戦争をなくすために武力を行使するとは!ソレスタルビーイング、存在自体が矛盾している」
「確かにね。……でも、グラハム」
「何だ」
「君がMSWADに配属されたばかりの頃、そうだ、僕たちが出会ってすぐの頃、僕に面白いことを言ったのを覚えているかい?」
グラハムは首を傾げる。自分はジョークが上手い性質でも、コメディアンなつもりも無い。
「アメフトの試合、だったかな。サッカーだったかな?試合中に乱闘騒ぎになっていて、その映像を見ながら君はこう言ったんだ。『あの争いを止めさせようと思ったら、どうするか』とね」
おかしなことを聞く、とその時カタギリは思った。士官学校を出たばかり、少尉になりたての新米兵が言うことにしては変わっていると思ったのだ。戦争を職業にした人間が、争いを止めさせる方法を人に聞くだなんて。
『止めさせるも何も、あれはスポーツだろう。スポーツにはルールがある。なければ、単なる野蛮な行動だよ』
『私が言っているのはそうではない。人間同士の野蛮な、非文明的な争いを止めさせる手段は何だと思うか、ということだ』
『……僕は技術畑の人間でね、哲学や宗教なんてことは門外漢だよ、エーカー少尉』
『私が出会った青年は、争う意思と手段を取り上げればいい、と言った』
『意思を取り上げる?手段だって取り上げられるようなものじゃないだろう?』
『詳しいことは分からない、彼はそう言った。争う意思があって、手段が人の手に届くところにある限り争いは無くならない、とね』
『それはそうかもしれないが、どうやって取り上げるって言うんだい?争う意思も手段も持つ者から』

「思い出した、思い出したぞカタギリ!そうだ、ロックの言っていたことを君は言っているんだな」
「ロック、という名前なのかい。君に面白いことを言った青年は」
「ああ、ロック=オニールと言ったな。アイリッシュ・アメリカンなのか、アイリッシュなのかは分からないが、肌はとても白くて赤茶の巻き毛は柔らかそうで瞳は澄んだグリーンだった」
それは男性に対する表現なのかい、と言いかけたカタギリの言葉をグラハムは勢い良く遮る。
「ロックは自身を傭兵だと言った。そんな保障の無い身分より、どこかに軍属しないのかと聞いたら断られたよ。自分は、国や上の人間のために戦えるほど崇高で健全な理念を持ち合わせてはいない、ってね」
「傭兵、ねえ。民間軍事会社にでもいたのかな」
「さあ。でも、そうだ、確かにロックが言うように争う意思と手段を持つ者から全てを取り上げようとするのなら、実行者はさらなる武力を持たなければならないだろう。二律背反を抱えた、どこにも属さない剣だ」
活き活きとしたグラハムの頬は薄く染まっていて、輝いた瞳はまるで恋をしている少女のようだ。
「グラハム……君ねえ、何を考えてるんだい」
「ん?ガンダムと、私に美しい横顔を見せてくれたロックのことだが」
グラハムが持つ彼の記憶は、薄暗いバーの片隅で見せた彼の横顔と落ち着いた声。うっすらと笑っていたようにも、思う。何せ五年ほど前になるのだ、細かい点までは覚えていない。美しい造りをした顔だな、と思ったことは覚えている。
「まあ、どこにいるか分からない青年はともかく、ガンダムにはまた会えるさ。君が軍人で、フラッグを駆る限り」
「何を言う、私はフラッグ・ファイターだぞ。今すぐにでもやり合いたいぐらいだ」
そう笑いながら、グラハムは彼が残した言葉を思い出していた。


『軍人なんてものがいない世界になれば、また、会えるかもな』









グラロクで幸せになるには、やはりミッション前に会っていないとダメだ、という考察の結果。ミッション後に会うと悲恋の可能性が200%ぐらいになる。