magic lantern

龍の眼

「お、ちょい待ち」
ドッグタグのマスターから紹介してもらう依頼ってのはホントに変なモンが多い。が、こんなトコに放り込んでおきながら特課は経費を払わないので、背に腹は変えられない。けっこう割がいいことに最近気づいたので、何も起きてない平和な日にはこうやって燈治を連れて潜ることにしている。何かあった、ってわけじゃないのに弥紀や巴、長秀みたいに部活のあるヤツを付き合わせるわけにもいかねえし。一人で潜ったこともあるけど、それがバレて燈治にすげー怒られた(何でだ)から燈治にだけは連絡するようにしてる。
「どうした?」
「んー……ここ扉あるっぽいんだよなァ」
普通の視界から、秘法眼の視界へはっきり切り替えるのにもようやく慣れた。ガキの頃は両方の視野が重なってた状態だったから、よく思い出せば見なくていいものを山ほど見ていた気がする。
思った通りに壁に偽装されていた扉があって、オレが手を触れると簡単に扉は開いた。燈治には壁にしか見えないので、変な顔をしながらも後ろをついてくる。
「ゲットトレジャー、ってね」
宝箱に入っていたものを仕舞って顔を上げると、いきなり燈治の両手に顔を挟まれた。ん?
「燈治?」
「……さっきの、もっぺんやってくれねえか」
「さっきの?これのことか?」
地下の狭い部屋(洞の中の隠し部屋だから当然)で男二人で(燈治しか連れてきてねえから当然)顔を近づけて見つめあう(顔捕まれてて何でだか燈治がこっちをじーっと見ている)、ってどうなんだこのシチュエーション。高校男子としてどうだ。
いろんな疑問を感じないわけは無かったが、とりあえずリクエストに従って燈治の目の前で秘法眼を発動した。これで真正面から生きてる人間を見るって滅多に無いから、オレとしては妙な感覚だ。生命エネルギーと言えばいいのか、それとも燈治が宿した札の力の残滓なのか、うっすらとした氣脈のようなものが見える。やったことは無いけど、多分弥紀たちを見たらちゃんと違うように見えるんだろう。
「やっぱり、綺麗だな」
「そりゃ、どうも。───……不気味じゃねえの?」
秘法眼を使っているとき、オレの眼はどうやら金色に近い色をしているらしい。らしい、というのはその状態を鏡で見ることが出来ないからだ。色んな虹彩を持った人間がいても、いわゆる白目と黒目の部分がまるごと金色になってる人間なんていない。ヒトとしてはありえない眼。
ありがとさん、と燈治が手をようやく離したのでオレは視界を切り替えて、改めて燈治と顔を付き合わせた。先を急ぐわけでもないからか、燈治は段差に腰掛けたのでオレも座る。
「不気味だと思ったことはねぇな。そりゃ初めて見たときはびっくりしたが、お前はその眼で俺たちを正面から見ねェだろ?俺は横から見てただけだが、いつか正面から見てやろうと思ってたんだぜ。この洞は得体の知れない化け物を生み出す癖に、妙に綺麗だろ。お前の眼がこんな世界を創る力と関係あるんなら、さぞかし綺麗なんだろうと思ってさ」
「……そりゃ珍しいだろうけど、そんな褒められることかね」
「いいだろ、受け取っとけって。何だっけか……ああ、そうだ、龍だ。龍の目みてぇだ、お前のソレ」
何と言っていいか分からなくて、とりあえず、むずがゆくなった身体を誤魔化すつもりで頭を掻いた。龍の目、ね。何も言わないオレに燈治はちょっと慌てたようにぽんぽんと言葉を足した。
「龍とか言っても見たことあるわけじゃねえし、知ってるわけでもねぇけどよ。何でだか、そう思ったんだ。強くて綺麗な目だ、お前のは」
たまに見せる燈治の穏やかな笑みを、どれだけのヤツらが知っているんだろうかと不意に思う。ようやくクラスメイトの顔と名前が一致するようになって、燈治と周囲の距離感みたいなものが分かってきた。弥紀や巴のように馴染んでいるとは言い難い燈治。本人が構わないのならオレがどうこうする筋じゃないが、もったいないな、と思わなくも無い。こんなに──かわいいのに。
「なんだ燈治、オレのこと口説いてンのか?」
「なっ!?」
オレが笑いながら言うと燈治は一気に顔を赤らめて立ち上がり、わざとらしく距離を取った。何か抗議したいんだろうが、ぱくぱく口を開閉させるだけで全く言葉になっていない。
「あはは、お前ホント可愛いトコあるよなー」
「な、七代!テメェ、馬鹿言ってンじゃねえぞッ!」
「そーゆー反応を可愛いと言うんだ、覚えとけー」
「馬鹿かッ」
大して広くない洞の部屋に、力いっぱい怒鳴った燈治の声が反響する。思わず噴出すと、よけい腹が立ったのか、帰るぞ!と怒り出してしまった。
「ほんと、もったいないよなァ。……ま、オレだけってのも悪くない」
呟いた声は燈治に届かなかったらしく、燈治は律儀に扉の前でオレを待っている。そんなとこも可愛いって言ったらさらに怒るだろうから、悪い悪いと謝りながら小走りに近づいた。

この眼を褒めてくれたのは、お前で三人目なんだ、燈治。オレはそれがすごく嬉しい。

一人目と二人目は九龍と皆守でしたっていう。家族環境については何も考えてないんですが…実の親兄弟だとちょっと微妙かもな、と思ったりします。一種の異常に見えるだろうから病気だの染色体異常だのって扱われたりしたこともあるかもしれない。燈治は誤解されてるっていうか遠巻きにされてるのを感じて自分からさらに遠ざけてるトコがあるから、難儀っていうか…生きにくそうだな、と思います。七代が来てから上手いこといくようになったらいいな。バレンタインとかめっちゃモテて本人びっくり、とか(笑)。