magic lantern

memories

第一話 稲妻の転校生


やっと仲間を見つけた、と思った矢先に雉明とは喧嘩別れのようなことになるし(雉明はまったく喧嘩してる感じじゃなかったのが余計ムカつく)、武藤は京都送りになるし、教官のおっさんっつうか先生もどっか行ったし。
「留学並にハードル高ェ。だって新宿って都会すぎる…」
ぼそっと呟いた声は誰にも拾われなかったらしい。さすが都会。みんな他人のことなんざ気にしねーな。東京に来るのは初めてで、そんなビギナーに新宿の学校に一人で入って居候してしかも初仕事しろとか、なかなかに無茶を仰る。さすが役所。さすが国家機関。
「あーあ、山なんてビルしか見えねえよ。森も田んぼも、古墳も見えない…!」
そろそろ危ない人認定かなと思いつつも、つい口に出してしまう。なんていうか、楽しいのだ。無茶振りされてる自覚はあるし、すごい面倒で厄介でシンドイ仕事になるかもしれないが、それでも、何か楽しい。理由は簡単だ。
同じ《力》を持った人間が、いっぱいる。初めて逢った仲間。雉明はちょっと…いや、だいぶ変なヤツだったが良いヤツなのは間違いなさそうだし、武藤は見るからに良いヤツだし、先生も悪い人じゃなさそうだ。この《力》はオレの幻覚でも思い込みでも何かの異常でもなくて、ちょっと珍しい《力》なんだと教えてくれた。あの印を刻んで手袋をもらってから、眼の制御が楽になってそういう意味でも楽しい。変なモノ視ないで済むからな。
「鴉之杜、鴉乃杜っと…変な名前だなァ」
公立高校の名前にしちゃおかしすぎる名前だが、新宿にはほかにも変な名前の学校があるらしいので、都会の神秘ということにしておく。その学校付近で見つかったカミフダを回収するのが任務だ。



拝啓、九龍さん、甲太郎さん。
四階にある教室に窓から入ってきた同級生がいます。都会ってワンダーランドです。
思わずそんな変なナレーションを頭でつけてしまうぐらいには、驚いた。九龍さんたちみたいにワイヤーガンだのフック付きロープだの、そんな道具、どこにも持っているように見えない。周りには木が繁ってるけど、だからって四階の窓から出入り出来るもんなのか?
おまけに。
「で?お前は何をしにここに来た?転校生」
目の前の、オレと同じぐらいのガタイ良さそうな男がそう言ってにやりと笑う。オレも思わず笑った。だって、すげえよ。
視界の端で穂坂と名乗った女子がきょとんとしているぐらいだ、オレは一応普通の転校生っぽく見えていたんだろうに。窓枠から乗り込んできた男は一目顔を合わせただけで、何か分かってしまったらしい。
「壇くん?」
驚く穂坂をよそに、壇は構わずに続ける。オレの目的に興味は無いらしいが、もしオレが敵になるなら容赦しないとか。なんだコレ。なんだコイツ。
コイツはオレの瞳のことなんて知らない。オレの仕事とかそんなこと何も知らねえくせに、興味無いって言い切るくせに、ただ真っ直ぐにオレの前に立っている。向けられているのは好意とは呼べない、微かな敵愾心を含んだものだったが、シンプルに感情を向けられることさえ久しぶりのような気がして、単純に嬉しかった。
いわゆる『転校生』に対する通り一遍の興味じゃない、オレ個人に何かしら引っ掛かりのようなものを覚えている。そう、こいつが視ているのは──オレだ。今日来た転校生、じゃない。
いつの間にか戻ってきていたボスこと生徒会長に連行される間(精一杯拒否ってみたがまるで無駄だった。どこでも女は強ェな)、穂坂が内緒話って風にこっそり教えてくれた。
「あ?どーしたよ。そういやお前、名前なんつーんだ?」
いまさらのように名前を聞いてきた壇は、いわゆる一匹狼の不良、みたいなもんらしい。誰かを誘う、とか巻き込む、とかそんなことはしたことが無いんだとか。オレは初めての例外らしく、おそらく穂坂は壇に嫌われているわけじゃないと伝えたかった…んだと思う。まァ、初対面から何かあったらぶん殴る、と言われたらそりゃ嫌われてるのかと思うよな。普通の女子は。
「七代千馗、だ」
「しちだい…?変わった名字だな、まァ……そんなのいくらでもいるか」
名前の漢字を知ればもっと変わってると言い出しそうだったが、壇が大して興味なさそうに話を切った頃には既に生徒会室に連行されていた。前の学校では生徒会なんて縁が無かったから入ったことは無かったが、こんなにイキイキした部屋じゃなかった気がする。なんていうか、要らない情報や過去が全く無い、生きてる感じだ。わざわざボスと名乗った会長の生気と関係がありそうだ、無線機で連絡取り合って一人の生徒を追い詰める生徒会なんてそうそう無いだろうからな。さらにその警戒網を潜って四階の窓を出入り口にする男子生徒もそうは居ないだろう。都会ってワンダーランド。
「校舎裏の焼却炉に白い何か、か。どこにでもこの手の話ってのはあるンだな」
今までだったらそう無理やり締めくくっていただろうが、今回はそうはいかない。会長が張り切ってるから、というよりはおそらくそれが任務の取っ掛かりになるだろうから、だ。
確認されたカミフダはこの学園の付近で見られたらしい。そこに目撃された今までとは違う怪奇現象。偶然にしちゃ出来すぎてる。クロ、だろう。カミフダを集めろって言われたって、特課の作った試札しか見たことの無いオレに無茶言うよな。どんなものか──そもそもちゃんとカードの形を保ってるのかも、分からないってのに。
それは杞憂で、この学園で見つかったカミフダは正しくカードの形をしていた。しかも一枚切りではない、なんてことをオレが知るのはもっと後の話だ。



⇒第二話 六道参の剣士



ところでカズキの名字は「しちだい」なのか「ななだい」なのか。これ、燈治は放課後(のはず)にわざわざ学校来て転校生の顔見に来てるんですよね。そう考えると何か萌えるものが。いつか燈治編を足すかも。