magic lantern

青天の霹靂と未来予想図 2

「隊長が倒れたって本当ですか!」
「というか今回は何日コースですか!」
ばん、と勢い良く扉が開き三人の大人たちが飛び込んでくる。彼らは状況の異質さに疑問を抱かないらしくヨシノに軽く頭を下げた。
「ヨシノさんがいらしてるってことはやっぱり本当なんですね」
「すみません、我々も注意していたんですが」
「あまりにも調子が良すぎて気にかかっていたんですが」
「そうねえ、目が覚めるのは明日の晩で、調子が戻るのは明後日ぐらいかしらねえ。丸二日なら耐えられるでしょう」
耐久レースか何かなのか、というか何日コースってツアー旅行なのか。そうは思っても口に出せないルーキーたちを尻目に三人の大人はぐっと拳を握る。
「三日コースですね、了解です!」
「耐えてみせます!」
「隊長のこと、よろしくお願いします!」
「寝起きの一発、期待してますから!」
最後に揃って叫ぶと彼らはそのまま火影執務室から姿を消した。部屋の主であり里長である火影には一切の言葉が無い。
「あの……今のは」
「隊長ってシカマルのことだってばよ?」
「暗部の副隊長さんたちね、解析部、参謀部、諜報部。あの子掛け持ちだから」
アルバイトのように言われても困ると思いつつ、部屋の中に増えた気配にルーキーたちが今度は何だと顔を上げる。そこにはシカマルそっくりの髪型(顔は似ていない)をした壮年の男が、彼らの上司であるアスマを首根っこ捕まえた姿で立っていた。
「あらあなた。終わったの」
「んー、まあなー。明日も任務があるって言うからよぉ、とりあえずこれぐらいでいっかなーって」
これぐらい、と評されたアスマはカカシや火影よりボロボロだ。どうしたんですかと尋ねる勇気を持ち合わせている者はいない。奈良家当主、奈良シカクが息子の超過勤務に抗議の意味を込めてぼこぼこにしたのは明白な事実だった。さきほどの襲撃を退けた時でさえ、ここまでボロボロにはなっていなかったはずなのだが。
「さっき副隊長さんたちが来たわ、三日コースだって教えておいたけれど」
「そうさな、そんぐらいか。んー…説明してくれって顔だなァ」
ようやく話が自分たちに向いてきたらしいと悟ってルーキーたちが揃って頷く。
「まああれだ、ちぃーっとばかしアイツはここが良くてな」
ここ、とシカクは指で頭を示した。アスマは既にぽいっと放り出されている。
「言葉は早い、アカデミーに行く前から禁術書は読める、おまけに暗号解読・封印解除・作戦立案が何より好きだときた」
「ほんとにねえ、玩具よりおやつより暗号だもの。ほっといたら食べないし眠らないし」
「アイツにせがまれて暗部から暗号やら封印された術書やら預かってきてたんだが、どうせなら本人が来たほうが早いってんで」
「七つぐらいからかしらね、お仕事してるのよ。最初のうちは内勤ばかりだったから大丈夫だったんだけど」
「どっかの誰かが不甲斐ないせいでなァ、暗部の実動に付き合うようになってから寝不足疲労極まってなァ」
雲行きが怪しくなってきた。奈良夫婦の視線が既にずたぼろと言ってもいい上忍二人に固定されている。火影は辛うじて紅が救出した。
「今みたいに倒れるときがあるのよね、人間は寝溜めなんて出来ないから一日ぐらいで起きるんだけど、本調子に戻すまでにはまた時間がかかるから無理をさせたくないのに、全く」
「本当にな、アイツに回転数落とすなんていう真似出来ねーの、付き合いで分かってるのに調節出来ない無能な上司がいるもんだからよォ」
「……でも良かった、あなたたちがあの子のことを嫌わないでくれて」
恐怖の視線から逃れた上忍二人は顔を見合せて、ようやく安堵の息をつくことができた。ヨシノに微笑まれたルーキーたちはきょとんと首を傾げる。
「あの子、ちょっと気にしてたみたいなの。教えられないのは暗部としての規則だから当然だし仕方ないけれど、隠し通せない状況になることがあるだろうからその時どうなるかって」
「こんなに早く来るとは、思ってなかったんだけどなオレたちも。まー、あれだ、これからもよろしくしてやってくれや」
にっと笑ったシカクに、ルーキーたちは揃って頷いた。驚きの連続だったが、自分たちを守ってくれた彼を、友だちを狙うのが許せないと怒った彼を嫌えるはずもない。
「はい!」
「ありがとよー、じゃ戻るか、かーちゃん」
「ええ。久し振りの家族団らんねー」
朗らかな言葉を残して、影にぽいっと札を落とした奈良夫婦の姿は執務室から消えてしまった。四人の大人たちから長い息が漏れる。
「…助かったネ……」
「ああギリギリな……」
悲哀を込めたカカシとアスマの会話に火影が黙ってうなずいている。
「ちょっとアスマ、カカシ、大丈夫なの?三代目、大丈夫ですか?」
「あー…オレら慣れてるからヘーキ」
「今回は軽い部類だよな、バレたってのに」
「バレたら命が無いかと思ってたんだけどネ」
紅の声にカカシはひらひらと手を振って答え、アスマも応じて座り込んだ。
「アイツの目が覚めたらもっかい地獄だけどな…」
「あの子が怒ってないことを祈りたい、切に願う、絶対ヨシノさんもシカクさんも止めないから」
「特Sの潜入任務に作戦ナシ装備品ナシで速攻放り込まれたら死ぬ…」
「任務書の手渡しと同時に放り込まれるとかザラだからね…」
二人の会話にルーキーたちの脳内で恐怖大魔王のようなシカマルの姿が構築されていく。というか。
「放り込むってどういうことだってばよ?」
任務地がどこであれ、里外であれば里から出なければならない。放り込む、というのは何かおかしい。ナルトの言葉に揃って首を傾げた。
「あー……さっき、ヨシノさんたちが急に消えたデショ、急に出てきたし」
うんうん、とルーキーたちが頷くのを見てアスマがカカシの言葉に続ける。
「シカマルがアカデミーまで歩くのダリーってんで発明した術でな、影を通して人を送り込むんだよ」
「ヨシノさんたちはここと家とを繋ぐ札──もちろんシカマルが作ったヤツなんだけどね、それを持ってて、それでいつでもここに来れるしいつでも帰れる」
何をするためにここに来るのかなど愚問だ。さっき、嫌というほど見せられた。
「家からアカデミーまで歩くのが…面倒だから?」
「自在に場所を繋ぐ術を作った?」
「さらにそれを印や術書なしで発動する札まで?」
ルーキーたちの言葉にアスマとカカシは頷いて、必要は発明の母らしい、と声を揃える。
「他にもあるよ、報告書をいちいち執務室まで持っていくのが面倒だから執務室に瞬時に報告書が届く術とか」
「三部隊をかけもちしてて部屋を移動するのが面倒だから呼ばれたら声を媒介にその場で指示を出せるようにする術具もな」
「さらには部下を呼ぶのが面倒だから口寄せの応用で部下を呼びつける術とかもあるヨ」
「あいつは面倒なことを省くために術を開発する手間は惜しまない。無駄や面倒は嫌いだけど手間を掛ける意味は分かってる」
それはなんというか、天才という言葉で片付けるには間違った才能ではないのか。全員そう思っているが口には出せない。かろうじて人の役に立ちそうな術であるのが救いだ。周りを驚かせる、ということは意に介さないらしい。
「思いついたときにはほとんど術式の構築出来ちゃうからね、その場で即興でも出来るから」
「あいつはな、ほんっとーに面倒くさいことが嫌いなんだ。アカデミーや下忍の任務中に目立ったことがないのは、目立つような動きをするのが心底ダルいからで、それ以外の理由は無い」
「まあ暗部ってのは機密だし秘匿義務があるから喋れないにしてもネ、実力を隠して云々とかじゃないんだよ、あの子の場合。仕事量が半端無いから昼間は体動かすのダルいってだけだしねえ。アカデミーの間はもちろん、起きてるのがダルいってだけで成績はドベ」
カカシとアスマの言葉にルーキーたちは顔を見合せて笑う。めんどくせーとだりーは彼の口癖だ。それが偽ったものではなく本心で、自分たちは謀られていたわけでも騙されていたわけでもないのが少し嬉しい。が、ナルトは少々微妙な笑顔になってしまった。ドベ仲間だと信じていたのに、ドベの理由が違いすぎる。
「それで…カカシとアスマも暗部なのね?」
「まあネー、オレらは外回りの実動部隊。シカマルともう一人入れてスリーマンセルとかフォーマンセルで動くこともあるけど、大体はシカマルに情報と作戦もらってオレらが行ってくるって感じかな」
「だから作戦をもらえなかったら大変なの」
軌道修正を図った紅の言葉に、カカシとアスマは涙を流さんばかりにそれはもう深々と頷いた。
「作戦をもらえないって…どういう風に?っていうかその権利が奈良にあるの?」
「あのな、紅。任務書の元になる情報はほとんどが諜報部と参謀部に集まってる」
「その全部を握ってンのはあの子、両方の部隊長だから」
「さらにそこから誰が適任でレベルがどれぐらいで最適な策が何かを一番理解してるのもアイツだ」
アスマの言葉にカカシと火影は深く頷き合い、やや青ざめた様子でカカシがぼそっとこぼす。
「……前に怒らせた時『こいつ殺ってこい』の一言で次の瞬間霧の里の上空に放り込まれました。辛うじてターゲットの名前だけは教えてくれたけど、遠征用の装備は一切ナシ」
「任務書を手渡してオレらが確認してる間に発動してるからな、アレ。任務書を読める程度の明かりがある以上、夜だろうと影が無い場所とかねーし」
「にっこり笑って殺ってこいよ?っていうシカマルは可愛いと思うけどさー」
紅もルーキーたちも二の句が継げない。里の中枢、根幹とでも呼べそうな同期の実力に呆れてしまった。
「ま、単独で出来ると判断した場合だけネ、そういうのは。無理だと思ったらちゃんとついてきてくれるし」
「単独で出来る、の範囲が相当ギリギリだけどな。任務遂行中に死を数回覚悟するぐらいか」
瀕死で帰ってきた、とさっきシカマルの母ヨシノは言っていなかっただろうか。ルーキーたちは言葉のままに予備軍及びお留守番になったことをようやく後悔し始めた。早まった感が否めないが、ここまで知らされると逆らう気にもなれない。生命の危険は無いかもしれないが、限りなく近いラインにまで持っていかれることは確実な気がした。
「で、で、シカマルが一番強いんだってばよ!?」
意気込んだナルトの質問にカカシとアスマは首を傾げた。
「いや?たぶん、単純な力押しならオレらのが上デショ」
「チャクラの総量もな。でも、アイツの場合面倒くさいダルいの一念で発動に必要なチャクラを削って威力を上げた術をいくらでも持ってるし」
「用意周到綿密すぎる作戦でオレらを手玉に取るとか容易いし、全ての行動を先読みするとか普通のことだし」
「何の情報も無い相手と戦うとして特上ぐらいのレベルだが、アイツは必要な情報を揃えるのに一分あれば事足りる。中距離を保って情報を揃えた時点でアイツの勝ちだ」
「情報揃えながら策を練るから、無駄が無いしねー。策を練られたらもういろんな意味で無理」
「要は最小限の労力で最大限の成果を上げちまうんだよな、いやーすごいよなー」
あはは、と上忍二人は笑っているが残りの八人はとても笑えない。最強最悪というわけではないらしいが、いろんな意味で恐ろしい気がする。
「シカマルはそんなに怒ってるの?っていうか、先生たちシカマルをそんなに怒らせてるの?」
今まで恐怖の対象だったのはシカマル一人(と時に応じてその両親)だったのだが、自分に声をかけてきた部下がどうにも怒っていることに気づいてアスマはハッとした。この三人、アスマ班のメンバーは幼馴染で親交が深く親同士家同士でがっちり結びついている。
「そうだよ、シカマルがそこまで怒るって滅多にないでしょう。さっきは…僕たちのために怒ってくれたけど」
チョウジが言葉を重ねる。二人はシカマルが暗部にいたことを知らなかったが、それでも幼馴染の本質を見逃していないと理解していた。彼はとても頭がいいけれど、意味もなく人を欺いたり嘲笑ったりする人間ではないはずだ。だからこそ、怒るには彼なりの理由や意味がある。
「いやー……その、なァ」
アスマの声にカカシも同じように視線を反らしながら言葉を濁す。
「まあなんていうか、ねえ」
「先生!」
「怒るってすっごくお腹すくんだからね、そんなたくさん怒らせちゃダメだよ先生」
両親が去ったと思えば次はその幼馴染に揃って睨まれ、カカシとアスマは深いため息を合わせるようについた。
「アイツがさっきみてえに倒れるの、初めてじゃないんだよな。何度もある。出来るだけ気をつけてはいるが、なかなか難しい。で、問題はその後だ」
「直後にまずさっきみたいにシカクさんとヨシノさんが締め上げに来るのネ」
「んで、目が覚めた後にアイツ本人がそうなった原因──ま、要はオレらと親父に直々に手を下すという二段構えになってる」
「仕事いっぱい任せてるの悪いと思ってはいるんだけどさ、あの子以外に出来るヤツいないし」
「ちなみにシカマルが怒る原因はただ一つ、ほいほい仕事回して余計な面倒かけやがって、という点だけだ」
「あの子も自分で調整してはいるんだけど、緊急案件が立て込んでるとこっちもいろいろ手を回し切れなくて」
「まあ、アイツがほっといたら飯も食わない睡眠取らないと分かってて暗部に入れたの親父だし、気をつけるって誓約してるからあの一家は容赦がない」
「気をつけてはいるんだけどネー」
しみじみと大人二人は顔を合わせて苦労を滲ませる。
「自己管理も能力の一つだと思うんだけど」
紅が発した当然の言葉にカカシとアスマは苦笑いを浮かべた。
「アイツが普通の自己管理なんてことを意識したらどうなると思う」
「そりゃあ、あの子のことだからネ?ある時間で家に戻るとか、強制的に睡眠を取る術を作って自分に掛けるとか出来ると思うけど」
出来るのかそんなこと、と突っ込む気ももはや失せてきたルーキーたちだ。何でもアリなのか。
「……三年前な、一時、里の機能が麻痺しかかったことあるだろう」
「まさかそれ、シカマルのせいだったの?」
「ンー、あの子のせいってよりはオレらのせいなんだけどネ」
信じられない、と目を見開いた紅に大人三人はずたぼろのまま深く頷く。
「オレらもアイツの仕事量把握しきれてなくてな、アイツは暗部の掛け持ち始めたばっかの頃で」
「成長期だから寝かせないと、と思ってそうさせたら」
「立ちゆかんことになってしもうたんじゃ」
里長の声は弱々しい。こんなことで大丈夫だろうかと未来を担う子どもたちは視線を交わした。どうやら、自分たちがしっかりしなければいけないらしい。
「立ちゆかない里を何とか円滑に回そうとしてたら余計手間が掛かることに途中でアイツが気づいてな」
「そっからはもうオレら真っ青の仕事人間になっちゃったんだよー」
「おかげで里は何とかやっておるがのぉ……」
火影の視線は限りなく遠い。
「途中で手を止めさせようにも、アイツ結界系スペシャリストだから間合いに入れないし」
「そもそも機密文書だらけのトコにいるから破壊も出来ないし……間違って何か破壊した時の報復が一番怖いし」
「一人で考えたいとか言って突然影の中に籠っちまうし」
「籠ったら最後、あの子が自発的に出てくる以外にオレらが確保する方法が無いんだよ。影の中に入ったままで過ごせるのなんて、奈良一族でもあの子だけだから」
どんな最強の引きこもりだ。というかそれはもう人としてダメすぎる。
ルーキーたちは無言のままそう意見を交わして、ようやく腹を据える。これはどうにかしなければ。大人たちの被害はともかく、遊びたい盛り食べたい盛りのはずの同学年の友人の環境はあまりに劣悪だ。それが彼の余りある才能と引き換えのものだとしても。
「それで仕事が多すぎてかえって余計な手間が掛かったって怒るわけね、起きた後で」
「ん。昔、無理やり眠らせようと思って麻酔とか睡眠薬とかやってみたんだけど」
猛獣ではないかそれでは、と全員思ったが何も言えない。ある意味確かに猛獣だと思ったからだ。
「奈良の忍に薬が効くはずも無いよな……里の薬品関係、殆ど作ってる一族の後継ぎだ、耐性完璧」
「物理的に昏倒させようとした忍もいたんだけどネ、何故かそれがシカクさんとヨシノさんにちょっと誤った情報で伝わってネー……アハ」
その先はもう聞きたくない。カカシの肩をサスケとナルトが掴んで止めた。これ以上恐怖伝説を増やされたくない。
「まー、薬品の耐性はもともと毒薬の耐性付けた副産物らしいけどな。兆候がないわけじゃないから、それを捉えればいいんだろうが…」
「兆候?そう言えばさっき副隊長たちが何か言ってたわね、そろそろだと思ってたみたいなことを」
紅がそう言うと、カカシはうん、と軽く肯定した。確かに兆候はあるのだ。
「あの子、頭が良いっていうよりか思考が止まらないみたいなトコがあってね。起きてる間、ずーっといろんなこと考えてるのヨ。今は仕事があるからその内容、暗部に行く前は四六時中周囲を質問責めにしながら付随する問題を自分で展開させていく。ジャンル問わず、答えの無いような哲学的なものまでね。で、それで具合悪くしちゃうことが多かったらしくて、とりあえず目の前に解決する問題を与えようってんで暗号を与えたわけ、シカクさんが」
「そしたらお気に召したらしくてな、次から次へと暗号を解きまくり術書の封印を解きまくって、シカクさんが面白がって与えた任務の作戦を考えるのも喜んでやってたんだよ、三つか四つぐらいで。オレと会ったのはその頃だな」
「シカクさんは暗部から暗号だの何だの持ってってたんだけど、外に持ち出せるレベルのものを解き尽くしちゃって。本人を連れてきてみたら暗部大喜び。オレと会ったのはこの頃ネ、六つぐらい?」
「ついでに親父も大喜びだったな。……で、どんどんアイツが解けるギリギリのレベルの難問ばっかり抱えてると、思考の回転数が上がるらしくて情報量をコントロール出来なくなるんだ。もともと仕事が出来るんで分かりにくいんだが、あまりに調子が良すぎるとヤバい」
「自分で自分を止められなくなっちゃうっていうか」
カカシの声に執務室は静まり返った。なんだか、とても痛々しい言葉のように聞こえたからだ。自分で自分を止められない、その言葉の意味をナルトは何となく理解していた。ナルトが制御出来ないのはよく分からないチャクラだが、シカマルは思考することそのものだという。
「じゃあ、普段ぼーっとしながら暗部のお仕事のこと考えてるの?」
「まあ考えてるだろうな。アカデミーの頃よく寝てたのは純粋に睡眠が足らなかったってのもあっただろう」
「邪魔しちゃダメだってばよ?」
「んー?いいんじゃない?本当に邪魔なら、あの子反応しないから。反応してるってことは平気」
不安そうに尋ねたナルトにカカシは笑った。邪魔ではないはずだ、思考を邪魔出来るものがないからシカマルはいつも無理をしてしまう。思考することと、現実に起こっていることに対処することは全く別次元で出来る。
「副隊長さんが言ってた、寝起きの一発って何のことですか?」
期待してます、と三人は口を揃えた。仕事が出来る隊長の復帰を望む気持ちは分からなくもないが、寝起きの一発とは不思議な言葉だ。サクラの言葉にアスマはああ、と頷いてみせる。
「限界まで情報を取り込んで思考してる最中にぶっ倒れて寝るだろ、で、一日ぐらいずっと寝てる。その間に解決する時があるらしい」
「寝てる間も考えてるの?」
「もともと睡眠にはそういう機能があるんだって聞かされたけどネ、情報をコントロールする機能があるって。で、抱えてる問題が解ける場合もあるし、全然新しい術だの何だのがばーって思いつくこともあるらしいヨ」
「ぶっ倒れた後じゃないと出ないんだけどな、その一発。稀にものすげーこと思いつくらしくてよ、部下は相当期待してんだ毎回」
「三か月前は結界シリーズだったっけ、書物用の」
「部屋でどれだけ暴れても機密書類が破壊されない結界、だ。今はもう三部隊の部屋に揃えてあるはずだけどな。部屋に新規に持ち込まれた書類でさえ即座にカバー出来る逸品だとかで、アイツの部下は泣きながら喜んでた。暗部の誰が何をしようと、おそらくアカデミーが木端微塵に破壊されても一切壊れないからな」
「……この部屋にも一応あるんじゃよ、それ。だからと言って遠慮なく親子揃って暴れよる……」
里長のあまりに細い声に全員が肩を落とす。シカマルがその結界術を思いついたきっかけは、絶対そこにあると確信したからだ。万人とは言わずとも多少なりとも人に喜ばれているので誰も止められないらしい。天才というか、そろそろ天災と呼びたくなってきたルーキーたちだが、暢気な声に沈黙を破られる。


一番好きなのが奈良家なはずなのに、なんですごい恐怖の一族みたいなことに…(笑)。