magic lantern

THE EMPEROR

「お前は何を恐れている」
刹那の声が暗闇に、落ちた。
「刹那?」
「お前は、研究所を出てからずっと何かを恐れている。研究所に来てすぐの頃と出る前も感じが違ったが、今もやはり何か違う」
刹那の言葉にロックオンは目を見開き、ややあって仕方なく笑った。本当に、笑う以外にどうすればいいのか分からなかったのだ。やっぱり動物みたいだこいつは、だとか こんなガキに悟られるなんて百発百中のスナイパーが落ちたもんだ、だとか適当な言葉ばかりが頭を巡って、目の前で真摯な顔で見つめている子どもを納得させられる詭弁すら浮かばない。
「やはりお前はこのミッションに納得していないのか」
「は?どういうことだよ」
何をどう話せば、といたずらに空転する頭で何とか刹那を納得させられるような言葉を捜していたロックオンは、刹那から投げられた意外な言葉に思わず気の抜けた返事をした。
「食うや食わずだったおれと違って、お前にはお前の生活があったのだろう、それを研究所が強引に連れてきた。おれは研究所に入って2年経っているがお前はまだひと月しか経っていない」
「えーっと……俺が不慣れで緊張してるんだろう、とかそういう話か?刹那」
「違うのか」
意外にと言うべきかやっぱりと言うべきか、聡いヤツだなとロックオンはしばし黙って刹那を見つめる。野生動物が気配に聡いように刹那は周囲に対してとても聡い。けれど野生の獣たちと違うのは、刹那は感覚的だが反射で動くわけではなく自分のルールに照らし合わせて行動を決めている。そのルールが社会に則しているかどうか、というのは刹那にとって問題ではない。
「……そうだな、確かに研究所に行かなくても俺は暮らしていくには困らなかっただろう、飯を食って寝るだけならな。でもそれじゃ、生きるとは言わないんだ。少なくとも、俺はそう思えない。俺には俺の目的がある。生きる意味が。それを達成するにあたって、このミッションに参加することには意義がある、そういうことだ。……最初はどうなることかと思ったけどよ、お前らはいいやつだし旅みたいな日常も悪くない。だからお前は心配しなくていい。ありがとな」
やらなければならないことがある、と分かっていたのに糸口さえ見つけられないままにギャングの中に身を潜めていた九年間。スコープ越しに誰かが倒れれば、それが明日へと生き延びた印だった。己を詰る資格すらない、最低な生き物。
真っ直ぐにロックオンを見つめるカーマイン・レッドの目には、何とか笑みを浮かべることの出来た顔が二つ映っていた。刹那は少しも表情を緩めずに、ロックオンに問い返す。
「生きる、意味?生きることに確かな意味なんてあるのか」
8年ほどストリートで暮らしていた刹那にとって、明日というのは『今日死ななかったからやってくるもの』であって、そこには予定も未来も挟まる余地が無い。今日を生き延びて、寝ている間に死ななければやってくるのが明日で新しい今日だ。その、途方も無い繰り返し。一日、朝から夜まで生き延びるために必死で、そのほかのことなど考えることが出来ない。2年前に研究所に連れて来られて、初めて『予定』という言葉の使い方を教えられた。新月の日になったら召喚をする予定、ということやヴェーダが全ての住民の生体データを検索して適性者が増えたら揃って研究所を出る予定、という風に。カレンダーの意味や明日の予定を立てるという意味も、全部研究所に来て覚えたものだった。
生き延びることが目的だった日々から抜け出した時、刹那には新たに目的が与えられた。召喚プログラムを実行し、この街に悪魔が蔓延り続ける原因を探り解決する。それが目的だから、刹那は今回のミッションを遂行することしか考えていなかったし、生きる意味だ何だとそんなことは考えたことが無かった。
「明文化する必要の無いヤツもいるだろうし、きっとお前はそういうタイプだ。頭のどっかでちゃんと分かってる。でも俺には明確な目標が必要だった。生きる意味って言うより、死ねない理由、とでも言えばいいか。達成するまでは何が何でも、死ねない。他の何を犠牲にしても。……刹那?痛いって」
死、犠牲と続けた声に、刹那の手がロックオンの肩へ伸びた。握り潰すほどの勢いで力を込められて、ロックオンの顔が微かに苦痛で歪む。力を込めすぎた刹那の指先は白っぽくなっていた。
「大丈夫だって、このミッションはちゃんとやる。……お前は、俺が何かを恐れていると言ったな」
ゆっくりと肩を掴んだ手を外し、触れ合ったままにロックオンは刹那を見返す。
「ああ」
小さく、息を吸って埃っぽいシーツに指を立てた。刹那に伝えたい内容ではない。出来ることならはぐらかしてごまかしてこの場をやりすごしたい。
けれど、真正面から自分を見つめて知りたいと告げてくるこの目に抗えない。真実を知らなくても嘘を嘘だと気付いてしまう、子ども。
「俺が怖いのは、おそらく、人間だ。俺に対する害意など無い、それどころか好意を見せちまうような、人間が怖い。俺が俺でいられなくなるような、気がする。今までの自分を崩されるような、何か間違った夢を見てしまうような、そんなことが怖い」
害意のある人間を恐れたことは無い。敵は即座に無力化するよう、身体が分かっている。本当に怖いのは、敵として立ちはだかる人間でも悪魔でもない。笑顔を向けられる度に、それは自分に向けられるべきではないと思う。大丈夫ですかと心配される度に、そう言われる価値の無い自分に気づく。無言のまま為された優しさに気づく度に、自分のあまりに深い闇を眼前に曝される。陽の世界にいる、普通の人間の中に紛れているとそのままこちらの世界の人間になれる気がして、ありもしない未来を見る。誰かの手を取ることを、選びたくなる。
それは、決して許されることではない。
他の誰が仮に許すと言っても、ロックオンは自分自身を赦せない。家族を奪ったドラッグの流通ルートを探して壊滅させ、張本人をこの手で殺したところでロックオンに残るのは人殺しという事実だけだ。家族の復讐という名目を盾に、無関係の他人を無感情に殺してきた過去は消えない。血に塗れた手を陽の下に曝すことを恐れて、寝るときでさえつけることが習慣になった皮手袋。まるで普通の人間のように、笑うことや社交的に振る舞うことにも慣れすぎて、『本当のニール=ディランディ』がどんなだったかも当に忘れた。
ミス・スメラギがバーで言ったように、自分が冷淡で神経質で独断的であり未練がましく過去への後悔を抱えていることはよく分かっている。だから、ロックオンの前に現れたのはあのカードだった。内向的な思索に溺れてしまう、そんな精神的に脆弱な面をも指摘するカード。
「……分かった」
何を分かったのか、とロックオンが首を傾げる間もなく刹那はベッドに上がりこんできた。古いベッドがぎしりと音を立てる。
「おいおい、刹那?」
刹那はベッドの上で膝立ちになり、ロックオンを見下ろした。いくらロックオンが上背があっても、膝立ちの刹那と座っているロックオンでは刹那の方が高い。
「いいから、寝ろ」
「へっ?」
言葉の意味が分からずにぽかんとしていたせいで、反応が遅れる。刹那はロックオンの頭を胸に抱え込んで、そのまま勢い良くベッドに横になった。
「お前さん、どうしたんだ、おい、刹那」
ぎゅう、と頭を抱え込む腕の力が強まる。頭上にいる刹那からの答えは無かった。あまりに近すぎる人の気配に、身体がざわつく。
「……ッ…」
これは敵じゃない、攻撃しなくていい、緊張する必要は無い。
自分に言い聞かせても、なかなか身体の緊張が解けない。視界が不自由なままにハンドガンを手繰り寄せ、その冷たい感触に安心して、思わず息を飲んだ。暖かな人の身体や気配より、冷たい銃身に安堵を覚えてしまう身体。これでも、自分は人なのだろうか。
「ロックオン」
頭上から声が降る。片手でしっかりと頭を抱え込んだまま、もう片方の手がゆっくりと頭を撫でた。巻き毛を梳くように、頭の形をなぞるように。
「……せつ、な」
身体の芯を掴まれたのかと思った。
胸の中心、少し左寄りの奥が痛い。こんな手を、確かに覚えている。いつかの記憶、自分が確かに人の子どもであった頃の。もう微かにしか思い出せない彼らの笑顔、優しい手、愛された記憶。胸の痛みが何故か喉からせり上がって、不自由なはずの視界が滲んだ気がした。
「もういい。寝ろ」
間近で聞く刹那の声は、いつも聞くよりずっと確かで正しく聞こえる。これが正しいのだと、思える。だからロックオンは言われるままに目を閉じた。目を閉じて、細く息を吐いて身体の力を意識的に抜く。すると、今まで気づかなかった音が聞こえてきた。
規則的で柔らかく、暖かい。
懐かしいような初めて聞くような。しばらく耳を澄ましていたロックオンは、頭上から小さな寝息が加わったことに気づいて刹那の腕から抜けようと試みる。
「……聞かん坊め」
首の辺りをがっちりと固定している腕の力はなかなかに強い。外せないわけではないが、たとえこのまま眠れずに朝を迎えても構わないと何故か思った。この音は心地いいし、この手は暖かい。それが子どものものだということは、今はとりあえず考えないでおく。
どうしても気配が気になって眠れなかったのに、ベッドで横になって眠ったことなんてもう十年ぐらい無いのに、こうやって横になっているのは悪くなかった。
自分に言い訳をするようにとりとめのない言葉ばかりを浮かべていたロックオンは、ふっと眠りに落ちた。
──この音は、人の音だ。人が生きている、音。
それが、最後。




「……うそだろ…」
翌朝、ロックオンの第一声はこれだった。寝ている間に力が抜けてしまったのか、刹那の腕は解けていたがそれでもロックオンは刹那の胸元に頭をつけるようにして眠っていたのだ。
「…………」
眠れたのはいいことだ。身体を横たえて眠れたから、確かに疲れは取れているし頭もすっきりしている。なのに、自分がやってしまったことの意味が分からずに途方に暮れた。人の傍で、あまつさえ抱きしめられるような形で、武器さえ手にせず寝ていたのだ。
上体を起こして刹那の様子を窺うと、刹那はくうくうと眠っている最中で起きる気配さえない。昨夜からよく眠っているティエリアやアレルヤの気配もそのままだ。そっとベッドを降りる。
「……どう、したもんかな」
ここは安全だと刹那が言っていて、4人とも無事だし荷物も無事なので問題は無いが、もし何かあったら自分は起きれただろうか。気配を殺すことに敏い敵はいくらでもいるのだ、気がつけずに後れを取ればそれはそのまま死に繋がる。休止状態になったままのハロを抱えて、ベッドの隅に追いやられていたハンドガンを携行し、ロックオンは部屋を出た。さび付いた金属音が部屋に残る。
「なんで、俺…」
あんな無防備に、人の傍で。何故ああなったのかは覚えているが、何故自分が眠ってしまったかを覚えていない。眠っている間に、敵が来たら起きられたのだろうか。刹那たちを危険に晒さずに対処できただろうか。
「だめだ、こんなんじゃ」
弱くなってしまう。強くなりたいという願望をロックオンは持たないが、弱くなることだけは許せなかった。もし仇が見つかっても、弱ければ返り討ちに遭うだけだ。復讐を遂げるために、弱くなるわけにはいかなかった。そのために必要なことなら何だって許せた。けれど、このままでは。
刹那の優しさは嬉しい。嬉しく感じる心が残っていたことに安堵したが、反面わずらわしくも思う。優しさなどいらないと撥ねつけられたら、きっと今まで通りの自分でいられる。けれどあの音が快くて、あの手が暖かくて。
暗い地下階を微かな明かりを頼りに、そのままロックオンは部屋から遠ざかった。



「刹那、ロックオンは?」
いつものように寝起きでぼうっとしていた頭に、アレルヤの声が入ってくる。刹那は自分の両手を見て、隣のスペースを見て、そして荷物がまとめられているベッドの傍を見た。ハロがいない。昨夜、ロックオンが何度も縋るように掴んだハンドガンが無い。
「どこかに行ってるようだ」
「それは分かってるんだけどね、そこロックオンが使ってたでしょう?だから何か知ってるのかと思って」
身支度を整えるアレルヤはどうしてそこにいるの、とは聞かなかった。
「……アレルヤ。生きることに意味はあると思うか」
「どうしたの、いきなり。生きる意味?それは人それぞれじゃない?」
「ロックオンは、自分には生きる意味があると言った。生きる意味というよりは死ねない理由で、達成しなければならない目標があって、それを為すためには犠牲も厭わないと」
刹那の話を聞いていたアレルヤはロックオンが置いていったままの荷物に目を落とす。彼の生きる意味。達成すべき目標。
「おれは生きることの意味など考えたことが無い。今日生きていれば明日が来る。目の前にはやるべきことがあって倒す敵がいる。それで十分だと思う」
「僕もどっちかっていうとそうかな。意味なんて考えたことないよ。生まれた意味は、既に生まれた瞬間に与えられていたもの。やることも」
半人半魔のアレルヤは、召喚プログラムを実行できる人間を欲した研究所が生み出した生命体だ。悪魔が跋扈する街の現状を変えること、召喚プログラムを実行すること、この二つに全てが集約される。
「あいつは、気配が傍にあると眠らないだろう。おれが夜に起きたときも、眠らずにずっと起きていた」
「……そう、みたいだね。どうにかしてあげたいけど、こればっかりは」
狭いベッドをようやく見つけ出し、3人で横になっても気づけばロックオンは壁を背に膝を立てて座り込んでいるのが常だった。そしてアレルヤが起きると、おはようと言ってロックオンは笑う。ロックオンの寝顔を見たことは無かった。座り込んで顔を伏せて、眠っているのかと思っても顔はしっかりと起きている。
「人間が、怖いと言っていた」
「え?」
「害意の無い、好意を見せる人間が怖いのだと、ロックオンは言っていた」
「それってどういう……」
途惑うアレルヤの声に刹那は首を振る。意味が分からないのは刹那も同じだった。
「自分が自分でいられなくなる、今までの自分が崩されてしまうから怖い、とかそんなことを言っていた」
「……」
アレルヤは思わず口元を手で覆って、もう一度ロックオンの荷物に目を落とす。
なんて、哀しいひとなのだろう。
好意を向けてくれる人を撥ね退けて拒まなければ生きていけない世界。誰かに心を許すことが、命取りになる世界。
野生で気高く生きる獣のように、たった一人で生き抜いてきた、ニール=ディランディという狙撃手。
3日前にアレルヤに向かって仲間だと言ってくれたその唇が、人を怖いと言うのだ。好意を向ける人が、怖いのだと。
ロックオンがどうしてそこまで怖がるのか、恐れは何に繋がっているのか、アレルヤには皆目分からない。全てを研究所にある書籍を通して学習してきたアレルヤにとって、いろんな意味で人間という存在は複雑すぎた。
けれど。
ロックオンが怖がっても、嫌だと言っても、アレルヤは彼を嫌えそうになかったし嫌いになれるはずがなかった。彼が苦しんでいるのなら助けたい、怖がっているのなら守りたい。自分の力が及ぶところなのか、どうすればいいのかも分からないが強くそう思った。
「おれにも、よく分からなかった。だから眠らせようとしたんだ」
「どうやって?」
まさか延髄に手刀を極めたとか言わないよね、と続けたアレルヤに刹那はまた首を振る。そういわれてみればその方法もあったなと思い出した。
「頭を抱え込んで横になった。いつか、本で読んだから」
「ああ、そういう……」
「なんとなく頭を撫でてみたら、しばらくして身体の緊張が解けていった。おれも眠ってしまったが、あいつも少し眠ったと思う。気配が、いつもより静かだった」
「眠れたのなら良かったよ。いつもロックオンは横にならないから」
なれないのだとは分かっていても、そう言うのは何だか哀しくて言えなかった。アレルヤの言葉に刹那が頷いたとき、ドアが開く。
「よ、おはよう。起きたんだな」
いつもと同じ笑顔が向けられてアレルヤは痛ましい気持ちを覚えながらも、いつもと同じ笑みを浮かべた。
「……ええ。おはよう、ロックオン」
「ロックオン」
「ん?どうした」
お前さん、挨拶ぐらいしろよと軽い口調で言うロックオンに、昨夜刹那が見た姿は微塵も見えない。
「昨夜は眠れたのか」
「…………おかげさまで」
嘘をついてもすぐにバレると分かっていたので正直に答えたが、出来ることならアレルヤの前で言うのだけは止して欲しかった。そう思いつつロックオンはため息をつく。ティエリアはスルーしてくれても、アレルヤは無理だろう。
「ねえロックオン、提案があるんですけど」
「なんだ?」
来た、と思わず身構えてロックオンは唇の片端を小さく引きつらせた。
「僕も刹那みたいにあなたをちゃんと眠らせてあげたい。僕じゃだめですか?」
「……待て。刹那、お前何を話した」
ぐるりと刹那のほうに向き直れば、刹那は昨夜のことだ、とだけ答えて詳しく話さない。
「〜〜ッ。あのなアレルヤ、刹那だからとかそういう問題じゃなくてな、今回のははずみっていうかたまたまっていうか、ともかくだめだ」
「どうして?今回みたいに安全な場所なら」
アレルヤの言葉にロックオンは首を振る。
「そういう、問題じゃない。誰かとかそういう問題でもない。俺の問題だ、俺自身の」
頑なに拒絶して首を振るロックオンの姿に、刹那は昨夜の言葉を思い出していた。人間が怖い。害意を向ける人間ではなく、好意を向ける人間こそが怖い。
「そうか。あれはおれたちのことを指していたのか」
「!!」
びくりとロックオンの身体が揺れた。気づかないと、思っていたのに。だからああいう言い方をしたのに。
「ロックオン、お前が昨夜怖いと言っていた『好意を向ける人間』というのはおれたちのことか。研究所のメンバーも含めて」
「刹那、何、言って」
舌がはりついて、声が出ない。あえぐようにかすれた声を出すロックオンの言葉をアレルヤが遮る。
「大丈夫、ちゃんと意味は分かっています。別にあなたは僕たちのことが嫌いなわけでも本当に怖いわけでもないんですよね。あなたが怖いのは自分が変わってしまうことで、変わってしまった自分では目標が達成できないと思っているから」
ただ一つの目標だけを胸に抱いて進んできた。ようやく手がかりを得た今になって、弱くなった自分が仇を討てないのでは意味がない。だから、怖い。
「僕はあなたの力になりたいんです。あなたが恐れるものやあなたを苦しめているものから、あなたを守りたい」
「だめだ……だめだアレルヤ、止せ」
アレルヤの声を遮ろうとロックオンは声を荒げて首を振った。
「あなたの嫌がることをするつもりはありません。ただ、覚えていて下さい。あなたに向かって伸びている手は確かにあるのだと」
「アレルヤ」
「僕もちょっと外を見てきますね。すぐ戻りますから」
ロックオンが遮るより早く、アレルヤは開けっ放しのドアから出て行く。残されたロックオンは半ば呆然と座り込んだ。
「なんで……」
なんで、そんなことを言うのだ。
弱くなってしまったら、これ以上弱くなってしまったら、復讐を遂げる力を失うかもしれない。誰かを殺すことを、それが家族の仇であっても躊躇う日が来るかもしれない。それでは意味が無い。今まで他人の命を奪ってまで生き延びてきた意味も価値も無くなる。
「どうして」
顔を手で覆うのが、やっとだった。ともすれば叫び出しそうだった。
つかず離れずの距離で、円満な人間関係を保てればそれで良かったのに。3人とも良いヤツだから、彼らに対して好意を覚えていたのは本当だし言葉に嘘はあまり無い。けれど、個人的な好意が差し出されると反射的に身が竦む。
「ロックオン」
刹那は昨夜したように、ロックオンの前に膝立ちになって彼の頭を抱え込んだ。両腕で抱え込んで、目を閉じる。それは、祈る仕草に似ていた。




ティエリアごめん。ごめんなさい。ティエ様のターンも書くから!……きっと↑の状況でティエ様は寝てるんだと思います…。すやすや。
刹那のターンですので、アレルヤはちょいとしたおまけです。