magic lantern

7.62照射 番外編  R18

寄越せ、と耳元で囁かれた声が悪魔のものにしてはあまりに熱っぽくて、ロックオンはまるで抗うことが出来なかった。どうしたら、と回転数の落ちた頭が同じ言葉を繰り返すばかりで、手に握ったハンドガンを向けて見せることも足で蹴り返すことさえ出来ない。
「ククッ……てめェのオネガイはちゃんと聞いてやるって言ってンだろ?きっちり眠らせてやるよ、もっとも……」
ロックオンの眼前で、黒く文様の這ったハレルヤの手がカチャカチャと金属音を立ててベルトを外した。アレルヤが今朝締めたはずのベルト、それを片手に持ってもう片方の手がロックオンの両手を頭上でまとめてしまう。
「ハレ、ルヤ…!?」
「あの金髪が戻ってきたところで、お前が起きられるとは思えねーなァ」
ベルトで両手を戒めたハレルヤはハンドガンを取り上げること無く、ロックオンのジーンズに手を伸ばした。逃げようと身体だけは動いたが、押さえつけられて両手を戒められた状態ではろくに動くことも出来ず、ロックオンは視界の中で自分のベルトが抜かれていくのを見るしか無かった。
「ハレルヤ、…何で!」
「なんで、か……ほんっとテメェら人間ってのは面倒臭い生き物だな。何をするにも理由が必要か?理由があれば何をしてもいいのか?」
ぐい、と戒められた両手が上へ引き伸ばされてますますロックオンの姿勢は固定される。ベッドの柵に括られたのだとは気づいたが、それを外す算段がロックオンには思い浮かばない。まして、初めて見るような表情をしているハレルヤの言葉に心を捕まれていては尚更だ。
「……ハレルヤ」
言葉をろくに知らない子どものように、ロックオンは呆然と名前を繰り返す。
「生憎、おれらには理由なんてモンは必要無ェ。したいからする、欲しけりゃ奪う、食いたいように、食うだけだ」
うっすらと開いたままになっているロックオンの唇を、ハレルヤは舌先を伸ばすようにしてぺろりと舐め上げた。接触がすなわち精気を吸われることだと思っているらしいロックオンは身体を硬くしたが、その様子にハレルヤは喉奥で笑う。精気を吸うにしてもその加減にしても、そんなことはハレルヤの匙加減一つでしかない。ただ接触するだけで済ませることなどいくらでも出来るし、極端に言えば握手をしても相手から奪うことは可能だ。
「ッ、ん、ん……!」
顎に親指をかけて唇を開かせ、舌で口腔を犯すようにかき回すとくぐもった鼻声がロックオンから上がった。ハレルヤは上顎の裏と歯列をことさらに舐め弄り、その都度小さく身震いする身体をまるで確認するように手のひらでゆっくりと撫で上げる。いつも精気を食らっていたのは首筋や手首からで唇をつけて行っていたから、直に肌に触れたのはほとんど初めてに近い。乾いた肌が触れ合う、ただそれだけだというのにひどく興奮した。
この肌の下に流れている暖かな血も、生命エネルギーである精気も、ハレルヤたち悪魔にとっては単なる餌の種類でしかない。人間の血肉を食らう種族がいて、人間の精気を食らう種族がいる。ロックオンの血や精気と、この建物内にいる顔も知らぬユニオンの兵士のものと、餌として何の違いも無い。そのはずなのに、ハレルヤには、どうしてもこの男のものが欲しかった。
ニールの憎悪だけを餌としてアレルヤの内に潜み、アレルヤの生が終わるまで眠っていようと思えるほどに、ハレルヤはこの男にはっきりと執着している。自らを悪魔だと蔑んだこの男を、人間としてアレルヤたちの傍に縛りつけ生き長らえさせてやろうとしているのも、その方法がこんな手段であるのも、全て理由があるなら一つだけだ。ハレルヤが、ロックオンを望むから。
「ん、っ……ぁ…はッ……」
長いキスを終えて唇を離すと、互いの唾液で濡れそぼった唇から小さな水音がした。ロックオンは息苦しかったのか、短く荒い息を繰り返している。
「こんなんで、くたばるんじゃねーぞ」
最後まで付き合え。
そう身勝手に囁いてから、ハレルヤは少し前に精気を食らって残した跡に舌を這わせた。びく、とロックオンの身体が震える。
「…っ、ハレ、ルヤ…!」
「わめきたきゃ、勝手にわめけ。おれは人間サマみたいにお優しくねーからな、泣こうがわめこうが止める気はねーぞ」
ハレルヤは本気で──止めるつもりなど無いということをはっきり示す意味で言ったのだが、言われたロックオンはきょとんと目を丸くして少しばかり残っていた身体の力を抜いてしまった。
「なんだよ」
不釣合いなロックオンの対応にハレルヤが顔を顰めると、何故かロックオンは眉を少しだけ下げるようにして微かに笑う。
「お前は優しいよ、ハレルヤ。俺みたいな人間なんかより、ずっと優しい」
「気色悪ィこと言ってんじゃねェッ」
ロックオンの言葉にまるで満月時のように興奮しきってしまって、ハレルヤは性急にロックオンの身体を開こうと服を剥ぎ取った。もう、ロックオンはまるで抵抗をしようとしない。そのことが興を冷ますわけでもなく、初めてはっきりと目にした肢体に引き寄せられてハレルヤは首筋から胸へと舌を這わせる。
「ぁ、ぁ……!」
微かに形作られてきた突起に舌を絡めて舐め上げると、ロックオンが堪え切れず声を零した。嬌声も、肌そのものもハレルヤにとっては長い生において初めて得たものだ。こうさせているのが自分で、動いているのは間借りしているアレルヤの身体だけれどもロックオンは自分を自分だと──アレルヤの一部ではなく、ハレルヤという仮名を持つ悪魔だと認識してなお、感じているのだと分かっているからたまらなかった。
「っァ、止め、…んんっ」
唇の中に収めて軽く歯を当て、もう片方をも指で弄ったハレルヤの目前でロックオンは小さく腰を揺らす。慌てたように唇を噛んで声を殺そうとする姿に、自然と眉が寄った。
「つまんねぇことしてんじゃねーよ」
尚も声を殺そうとするロックオンの顎をハレルヤは片手で掴み、出来るだけ力を入れないようにして唇を開けさせる。
「…は、ぁ……ッ…」
「テメェはヨガってりゃいンだよ、余計なこと考えてんじゃねぇ」
両手も身体全部も、顔でさえ自分の思うように動かせない。そうさせているのは目の前の悪魔で、半ば自分から望んだこととは言えさすがにこうなると思っていなかったロックオンは無理やり開けさせられた口ではくはくと浅い息を繰り返した。
酷いことをされている、のかもしれない。これからもっと手酷く弄られるのかもしれなかったが、ロックオンの中には制止したい気持ちはあってもハレルヤ自身を嫌ったり憎んだりする気持ちがどうしても湧いてこない。それがひどく不思議で、どこかで当然のようにも思えた。
ハレルヤはロックオンの両手を戒める前に、繋いでやる、と言った。それが自分にという意味なのかこの世界に、なのかそれとも己を悪魔と蔑んだロックオンを人間として繋ぐという意味なのか、ロックオンには分からない。分からないが、このハレルヤの行動にはハレルヤが最も嫌っているはずの善なる意思があるのだと思えた。本当にどうにかしてしまいたいのならそのまま食らえばいいのだし、無抵抗の人間を一人殺すことはハレルヤにとって造作も無く露ほどの呵責も感じないはずだ。けれどそうはしない。
ハレルヤ自身に悪感情が微塵も無いのだから、ロックオンの危機であれば勝手に出てくることもあるミカエルたちはCOMPの中に納まったままだ。無論、この場でロックオンが呼ぼうとすれば出てくるのだろうが、ロックオンが本当の意味で危機を覚え助けを求めているわけでは無いと彼らは理解している。見えているわけでは無く、精神波で繋がっているので波長で判断しているのだ。
「ハレル…ぁ、ぁッ!」
自分を繋ぐといい、何も考えなくていいとわざわざ告げてくれた優しい悪魔の名を呼ぼうとしたロックオンだったが、唐突に自身を大きな掌に握られて甲高い声しか出なかった。
「そうだ、そうやって啼いてろ」
「っふ、ぁ……や、やめ…っ、ぁあ……」
あからさまな嬌声に気を良くしたハレルヤはにぃと口の端を上げて、長い指で硬くなっていく自身をロックオンに教えるように撫でまわす。笑みを形作ったままの唇を胸や腹に押し付けては、肌をそれこそ舐めるようにして隙間無く身体に触れていった。
「っ、ぁ……や…!」
自身に手を伸ばしたまま、さきほどと同じように胸の突起を唇と舌で弄るとロックオンはびくりと腰を跳ね上げて、いやいやと頭を振る。
「へェ?随分と良さそうじゃねーか、ええ?」
「…ちが、…ッぁ、や、やぁ……」
否定しようとしたその言葉尻が、すぐさま嬌声にとって変わり甘く解けた。反応が顕著だと理解したハレルヤが執拗になぶり続けると、次第に声が濡れ自身を握っている掌からも濡れた音が響く。
「ぁ、ハレルヤ……ッ…だめ、だ…」
「アァ?…何がだめ、なんだよ?」
くちゃくちゃと音をことさらに立ててハレルヤが耳元で息をかけるように囁いた途端、ロックオンは短く悲鳴のような声を上げた。
「ッやぁ!……っ、は、…も、出る……っ」
「イケよ」
「ひ…、ぁ、ぁああッ!」
引き攣った声に甲高い嬌声が続き、ロックオンはハレルヤの手をしとどに濡らす。ぬちゃり、とハレルヤは煽るように音を立てて指で粘液を玩んだ。温かい、もの。アレルヤが学んでいたところによれば、これは人間の命を作り出すことが出来るものらしい。命を作るという行為そのものが悪魔であるハレルヤには全く理解出来ないし、そこら辺にいるだろう淫魔たちの餌だとは認識できてもそれ以外の用途が全く見出せない。指先にべっとりと付いた白濁を舌先で舐めてみたが不快な味だったので、顔を顰めようとした矢先に大声で遮られる。
「おっ前、何して…!?」
「は?」
確かに食べて美味しいというかそもそも人間の食用では無さそうだが、とハレルヤは首を傾げながら尚もぺろりと掌に溜まったものを舐めた。インキュバスやサキュバスたちはよくこんなものを食う気になるなとやや的外れなことを考えていたハレルヤは、不意に上げた視界の先でこれ以上ないほど顔を赤らめているロックオンを見て思わず瞬きを繰り返す。
「そ、そんなの舐めてんじゃねえよ!とっとと拭け」
「………ほう?」
ロックオンが顔と言わず首や目元や開かれている胸までうっすらと赤らめているのは、汚いだの気持ち悪いだのという意味ではなく羞恥なのだろう。そう正確に読み取ってハレルヤはロックオンの眼前でにやりと笑んでみせた。
「そんなの、ねえ……お前がおれにヨガってわめいたシルシじゃねえか。悪くねェ」
「なっ……」
フリーズしてしまったロックオンの前で、ハレルヤはべったりついた白濁を自らの胸に塗りつけてみせる。身体中に這っている黒い文様に塗られたことで白いものがことさら目立ってしまい、ロックオンは小さく声を上げた。
「お前はおれやコイツと違って白いからな……赤くなって欲しがってンのがよく分かるぜ?」
今のやりとりにも感じるものがあったのか、ロックオンの肌は興奮を示すように薄くピンク色になっている。さきほどまでハレルヤが執拗に弄っていた胸の突起も赤く尖ったままだ。
「あ、…ッ……や、だ…!」
突起を軽く弄ってから、上から覆いかぶさるように対面したハレルヤがロックオンの片足を抱え上げたところでロックオンはむずがるように声を上げて逃げようと腰を引く。力が抜けているのか、抗う力はハレルヤを遮るほどのものでは無かった。
「止めてやらねえって言っただろーが」
「……っ…」
う、とロックオンはその言葉に怯んで抵抗の動きを止め、その代わりと言わんばかりに身体に力を入れてしまう。肩に担いだ右膝から太ももにかけてハレルヤが手で撫でても力を込められた筋肉が硬いばかりだ。
「めんどくせーなァ……」
いかにハレルヤとて、こうまで硬く力を込められては入れにくいことぐらい分かる。一切考慮せずに犯してやることも一瞬考えたが、それはどちらかと言うとハレルヤのそもそもの願望からは遠ざかるのだ。こんな状態のロックオンを力で犯すということが、ロックオンに誤った慰めを与えるだろうこともハレルヤは感覚で理解していた。
ロックオンは両手を戒めた当初から、明確に抗おうとしない。両手を戒めたベルト、力任せに暴れた結果として手首が擦り切れていることもないし、ロックオンの意思にのみ反応するCOMP内の悪魔たちが反応している様子もない。どこかで諦観しているのか、仇を討とうと生きてきた己が遂に仇を討たなかったことに対して罰を受けたいのか、その両方か、ロックオンはハレルヤの行動を甘んじて受けているのだ。本来ならば、矜持にかけてこんな真似を許すはずのない男が。
「……くだらねぇ」
「え……?」
全く、くだらない。
自分を罰したいニールの自虐に付き合ってやる趣味などハレルヤには無いし、ハレルヤは快楽と享楽を旨とする悪魔であって何かを痛めつけることにのみ快楽を見出せる悪魔ではないのだ。好むものは文字通りの快楽、悦楽だ。それを引き出す過程としての行為ならともかく、自虐を望む人間に付き合って嗜虐してやる必要など全く無い。
「おら」
ハレルヤは真っ直ぐロックオンと視線を合わせ、頭上で戒めていた両手を解放する。
「ハレルヤ…?」
身体はアレルヤのものだが、反応しているのはハレルヤの精神が及ぼしたことなのでハレルヤがかなり切羽詰っていることを視覚で理解しているロックオンは唐突な解放に驚いて、無防備な顔でハレルヤを見上げた。
「持てよ、ちゃんと。てめェの獲物だろ」
手の力が緩んだ時に外れかかっていたハンドガンを再度握らせ、ハレルヤは再度ロックオンに覆い被さった。無論、逃がしてやるつもりなどないのだ。
「本気でおれに抗いたいなら、そのまま撃て」
「──ッ!?」
ロックオンの右手、掴まれているハンドガンの銃口をハレルヤは自分の首元に宛がう。そして、笑った。
「身体はアレルヤのものだから撃てねェ、なんて甘いこと言うなよ?お前はミカエルを呼び出しておれを攻撃出来るんだからな」
「…………」
出会った当初と同じ意味の台詞をハレルヤが告げると、ロックオンはCOMPに視線を巡らせ、首を振る。
「お前の願い通り、眠りたいのなら眠らせてやる。ただしおれのやり方でな。それを受け入れる気があるなら、大人しくヨガってろ」
「……ずるい、だろ」
「何がだよ?」
ハンドガンのトリガーに指をかける気が無いことを見て取ったハレルヤは、そのまま頭を銃口につける姿勢でロックオンの肌に舌を伸ばした。うっすらと汗ばんでいるらしく、さきほどとは感じが違う。
「お前、こんなの、卑怯だ……!優しいくせにずるい」
「おれは悪魔だぜ?お前ら人間が言うところの、狡猾で卑怯な存在ってヤツだ。そもそもがな」
ハレルヤの舌先が身体をなぞるように舐めていき、ロックオンはぴくぴくと身体を小さく振るわせる。両手を戒められていたからしょうがない、という態でハレルヤの責めを受けていたさっきまでと何もかもが違うことにロックオンは気づいて首を何度も振って快楽を逃がそうとした。
「…ッ、……ぁ、あ…!」
ハンドガンのトリガーを引けないのは、ミカエルたちを呼ばないのは、ハレルヤに抗えないのは、自分の意思。自ら進んでこの状況に在るということが、ことさらにロックオンの快楽を煽った。抗える力をいくつも持ちながらそれをしない。ハレルヤはただロックオンを嬲って痛めつけたいわけではなく、快楽で堕としめようとしているだけだ。
痛めつけられたのならば、その苦痛に耐えることであらゆるものを誤魔化せる。仇敵を他人に預けるという判断をした己に、まるで悪魔としか言いようの無い心持である自分に対する罰なのだと摩り替えることだって出来たはずだ。今まで仇敵を討つためだけに他人を殺め続けてきたはずの自分、その自分が仇敵を生かしたまま他人に預けるなど罪以外の何物でも無い。罪には罰が。もともと罪深い自分が更なる罪を重ねて、己が命では購いきれぬほどの咎を抱えて、その断罪を誰かに求めていたのかもしれない。目の前の悪魔に断罪されて、醜い己に罰を与えてもらえるのだったら。
けれどハレルヤはそうしない。ただただ、ロックオンがいっそ泣きたくなるほどの優しさで快楽に堕とそうとする。明確な逃げ道と、そうでない逃げ道とをいくつも用意する周到さで、だ。
「こん、な……ハレル…ヤ……ぁ…」
胸から下りていった舌がロックオンの自身に触れ、ぐいと両足を持ち上げられる。ハレルヤの眼前に全てを曝してしまう姿勢になって、ロックオンはとうとうハンドガンを手放した。この悪魔に抗う術など、無い。痛みではなく快楽に逸る身体が苦しくて、ロックオンは両手をハレルヤに伸ばす。
「…ん、焦るなよ」
くすりと笑う低い声さえ、気持ち良い。気持ち良い、と自覚してしまえば止まることが出来ない。ハレルヤの舌が入り口に触れ、そのぬるついた感触にロックオンは小さく息を詰める。気持ち悪い行為のはずなのに、それを齎しているのがハレルヤでこれは強姦などではなく言わば合意なのだと理解しているから、そんな自分に対する羞恥がさらに快楽を呼び起こした。
「あ、ぁあ…ッ……ハレルヤ…!」
しきりに名前を呼ぶ声が、しっとりと潤んでいる。目も、肌も、自身も濡れてひくひくとハレルヤに応えていた。
「ニール」
「…なに…?」
両膝を深く折り曲げられた姿勢のままハレルヤが覆い被さって指をロックオンに伸ばすと、ロックオンはどこか稚くさえある様子でハレルヤを見上げる。
「舐めろ」
人間ってのは弱っちいんだからな、とわざわざ付け足したハレルヤの言葉に笑うでもなく、言われるがままにハレルヤの指を口に含んだ。ぺちゃりと舌を這わせて、舐め続ける。
「ん、ん……っ、ふぁ」
「もういい」
指を引き抜いて濡れた唇を指でなぞり、そのまま濡れている指をなかに這わせた。
「っ…ぁ、や、ハレルヤ…ッ」
「痛くねーだろ、力抜け」
指がようやく一本入るほどのなかを押し広げるようにぐちぐちと指を動かす。ん、ん、と短い息がロックオンから漏れて痛みを覚えているわけではなさそうだとハレルヤが思っていた矢先。
「ぁ、ひぁぁッ!」
「……へえ?こんなんにもイイトコってのがあンだな」
ハレルヤの指が掠めた一点、ロックオンは大きく嬌声を上げて背を反らせたのだ。ハレルヤは楽しげに口の端を吊り上げて、何度も指の腹でそこを刺激する。
「いや、やだ、ハレルヤぁ…それ、やだ…!」
「こんだけヨガっといて何言ってんだか」
いやいや、と尚も首を振ってがくがくと腰を揺らすロックオンからハレルヤは一度手を離し、身に着けていたズボンと下着を取り去った。
「あ……」
「──今はおれの、だからな」
ロックオンがハレルヤの言葉の意味を察するより前に、ハレルヤは自身をゆっくりとロックオンのなかに埋めていく。ロックオンは背ごと仰け反らせながら、ゆっくりとした動きに耐えた。
「あ、あ……入って…」
「入ったぜ?おれが。分かるだろ」
ハレルヤが動かしている身体はアレルヤのものだ、ロックオンに触れている全ては物質体であるアレルヤのもの。けれど。
「ハレル、ヤ……」
ぼうっと両腕を伸ばしてしがみついてきたロックオンは、アレルヤの身体だから止せとは一言も言わなかった。ハレルヤ、と何度だってハレルヤ自身を呼ぶ。
「……こんなに、熱ィんだな…」
人間の身体がこんなに熱いものだとハレルヤは知らなかったし、知ろうともしなかった。乾いた肌を合わせた時の高揚感を伴った淡い快楽も、快楽の証として吐き出させた白濁の温かさも、何もかも。どこまでもロックオンは──ニール=ディランディは人間で、自分は悪魔でしかない。
人は人として、人間の世界で生きるべきなのだろう。悪魔が、もといた次元に戻るべきであると同じように。
感傷にも似たハレルヤの想いを察したのか、ロックオンがぎゅうとしがみついた腕に力を込める。小さな声で呼ばれた名前に、何も感じないわけでは無かったがそれを振り払ってハレルヤは笑った。
「足りねェって?お前、やっぱ大概エロいな」
「ちが、…っ…ぁ、だめ、そこ…ッ…ぁああ!」
「だめでも嫌でもねーだろーが。気持ちいンだろ?」
がつがつとさっき指で反応した場所を執拗にハレルヤが刺激すると、ロックオンはハレルヤにしがみついたまま絶えず嬌声をもらし続ける。
「い、やぁ……も、ハレルヤ、ハレルヤぁ…」
「お前、自分で腰振ってンの気づいてっか?エロいったらねーよ」
緩慢な動きではあったが、自ら快楽を求めようとする姿を指摘したハレルヤにロックオンは首を振って否定した。
「んッ……分かんな、ぁあ……も、もう、ハレルヤ、もう……!」
「あ?イキそうか?」
ロックオンは何度も頷き、もうだめ、と繰り返す。
「イく、も、イッちゃ……ぁあ、出る、だめ、…ぁあああッ!」
「──ッ」
ぎゅうと締め付けられてハレルヤは思わず息を詰めたが、ロックオンがひときわ大きな嬌声と共に意識と精とを放ったのを見て、ゆっくりと息を戻した。
「ニール」
自ら放った精に塗れているロックオンはハレルヤの呼びかけに応えない。当初の望み通り、意識を失ったのだ。
「…………くそッ」
ロックオンに収めたままのものが解放を訴えて痛いほどだったが、ハレルヤは怒張したままの自身をゆっくりと引き抜く。とりあえずロックオンにアッパーシーツをかけてやり、ハレルヤは深い息を吐いて身体だけが訴える熱を逃がそうとした。ハレルヤが触れた白濁はロックオンのもので、それは人間が持つ生命の源とやらだ。そして今この身体が吐き出そうとしているのはアレルヤのものだ。決して、ハレルヤのものでは無い。間借りさせられて長いので、アレルヤの身体を己のものとして使うことに今更抵抗など微塵も感じないハレルヤだったが、こればかりはどうしても嫌だった。
ハレルヤという悪魔としてロックオン──ニールに触れ、セックスをしたとそう思っていたいのにアレルヤのものを出してしまうのは何かが違う気がした。物質体を持たない悪魔である自分の、悪あがきのようなものなのだろう。ハレルヤはそう自嘲してロックオンの顔を撫でた。
「……ニール」
ニール=ディランディ。
復讐を望み、自らの意思でそれを手放して、己を悪魔だと嘲った男。
この男に会わなければ、ハレルヤは表に出てこのミッションとやらに積極的に参加してやる気など無かった。アレルヤの身体が負傷によって使えなくなったのならば、ハレルヤは晴れて自由になれるはずだから協力する必要など無いのだ。たとえ魔力の乏しい状態で放り出されるのだとしても、人間のうちに閉じ込められるよりはどれだけマシだろう。
しかし、ロックオンと名乗るニールに出会ったことが、全てだった。憎悪に満ちた極上の精気を持ち、いくつもの矛盾をはらんだ、アンバランスな人間。抱える闇は悪魔のそれと同質、闇の根底にあったのはどこまでも高潔な魂。高潔であるが故に、憎悪と意思の板ばさみに苦しむ姿をハレルヤは少し前につぶさに見ている。
「お前は、人間だ」
だから過ぎた憎悪はおれがもらっていく。
前髪をかきあげてロックオンの額をあらわにしたハレルヤは、そのまま額にそっと唇をつけた。復讐を決意したのも己ならば、手放したのも己だろう。もう手放したもののことでこれ以上、苦しまないでいい。
幾度かロックオンの髪を梳いて、ハレルヤはそのまま部屋を後にした。外がいくらか慌しい。あの軍人が帰ってきたのかも、しれなかった。


……。エロ、難しい。

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