magic lantern

ワールドエンド・フューチャー 前編

『悪かったな』
──違う。
『本当にお前の言う通りだよ。俺は壊すことしか出来ねえ』
──そんなこと無いって言ってるでしょう。
『お前のことを信じてるつもりだった、信じろってさんざ言ったの俺だったのにな。……ごめんな』
──どうしてそこで謝るんですか。やっぱり僕はどうやっても信用に値しないってことですか。
『ごめんな、バニー。俺がお前にしてやれることなんて、もうこれぐらいしか思いつかねえ』
──僕はあなたに詫びて欲しかったわけじゃない、あなたに傷ついて欲しかったわけじゃない、あなたに信じて欲しかっただけなのに!
バーナビーが声を振り絞って叫んでも、目の前の虎徹は何も応えない。傷だらけの血まみれで、ゆっくり目蓋を閉じていく。
──おじさん!目を開けて下さい、おじさん!
──嫌だ、嫌だ…嫌だ!!
暗闇にぼうと浮かんでいた虎徹自身の姿さえも、闇に飲まれて消えそうになる。手を伸ばしても、闇を空切った手は虎徹にかすりもしない。どこか満足そうに微笑んだまま、消えていく虎徹にバーナビーは何も届かない。
──僕はまた喪うのか…?大事な人を、大切な人を、信じようと決めた人を!
──虎徹さん!!
「……ッ!!」
大声で彼の名前を呼んだはずだったのに、気がつけばバーナビーはぐるりと取り囲んだヒーローたちに顔を覗き込まれていた。
「バーナビーくん!気がついたんだね!」
「良かったぁ…」
「え…?皆さん、どうして……」
自分は虎徹を掴もうと、彼を離すまいとしたはずだ。なのに何故身体が動かない?ドラゴンキッドやブルーローズは何で泣いている?
「ナースに知らせてくるな」
ロックバイソンがそう言って部屋を出て行く。ピッ、ピッ、という規則的な電子音が聞こえていた。目に入ったものは包帯、何らかの点滴の管、白過ぎる部屋、簡素なベッド。
「病院……」
「ええ、そうよ。倒れる前のことは覚えてるかしら」
「はい……大丈夫…」
大丈夫です、とファイアーエンブレムに返そうとしてバーナビーはぴしりと固まる。折紙サイクロンが入院していることは聞いていたが、彼は包帯が見え隠れするものの心配そうに顔を覗かせていた。先に戦って敗北したスカイハイも、ロックバイソンだって姿を見せていた。この場にいないのはたった一人。
「……ッ…」
おじさんは、と訊ねたかったのに咽喉が渇いて声が出ない。舌が張り付いたように動かない。ICUに運ばれたことまでは聞いていた、その後は?女性陣の涙と関係があるのだったら?
「あ……」
自分は確かに彼の言動に傷ついたけれど、その後のやりとりで虎徹もまた自分の言動に傷ついていた。ジェイクを倒して捕まえれば、今度こそ一人前と認めてくれるだろう彼の謝罪を受け入れようと思っていたのに。
──夢で見たように、全部遅かったのだろうか?
──僕はまた喪った。今度こそと決めた人を、何より大事な彼を……
「ちょ、ちょっとハンサム!?」
顔が熱い。視界がぼやけてよく見えない。耳の後ろ側のシーツが濡れている。ブルーローズの高い声がどこかから抜けていく。周囲がざわめいているが、それすらどうでも良かった。
「目覚めなくて、良かったのに……」
「ちょっと、ハンサムあんた何言ってんの」
──貴方を喪ってまた一人になるのだったら、夢の中でも、手が届かない幻でも、貴方を見ていたかった。貴方と一緒にいたかった。こんなことを言えばきっと彼は笑うだろう。情けねえこと言うなよって笑って、でも、黙って傍にいてくれるだろう。
「……さん…」
──貴方は罪滅ぼしのつもりだったかもしれない。僕があんなことを言ったから。それとも僕らを、この街を護ろうとしただけだったかもしれない。能力が切れてボロボロでも戦うことを止めなかった。でも、僕は貴方を引き替えにして護った街を、貴方のようには愛せない。貴方がいない世界に、僕が残される意味なんて分かりたくない。それを愛情と呼ぶのなら、そんな愛なんて欲しくない。
──ヒーローなんて、誰も何も護れない、ただの幻想だ。あの時の僕を、今の僕を、そして何より彼を護れなかった、ヒーローなんて要らない。



お姫様抱っこショック、プレゼントショック、朝チュンショックに続く、12話ショック。でも12話のやりとりが無かったら、兎虎にここまで本気にならなかった気がする。